第55話 アルフォート視点

「この者以外になにか私に言いたい者は?」


 項垂れたカナリアを後に、振り返った私に文句を口する使用人は一人としていなかった。

 その顔に浮かぶ絶望の表情から、私の告げた罪に納得がいっているわけではないだろう。

 ただ、理解できたのだ。


 ……これ以上抵抗しても、事態を悪化させるだけだと。


 使用人達が何も言ってこないことを確認した後、私は口を開いた。


「この程度の罰で済んだことを私に感謝してくれていいぞ」


「……っ!」


 その言葉に、私に複数人の使用人達が憎しみを目に浮かべて私を睨む。

 が、使用人達と私が目を合わせると、誰もが無言で目をそらす。

 どうしようもないそんな使用人達に、呆れを覚えながら私は告げた。


「お前達がエレノーラ嬢にしたことより、はるかにましだろうが」


 強制労働など比にならない激務を、粗食で強いられる。

 それは、強制労働よりも酷い扱いだったと言って過言ではないだろう。

 だが、それを私に指摘されても使用人達の顔に浮かんだのは疑問。


 自分がこんな重大な罰を与えられる理由が分からないとでも言いたげな。


 使用人達は、自分達がやったことの重大ささえ、理解できていなかった。


 ……そんなどうしようもない人間達に、心底軽蔑を抱きながら私は吐き捨てる。


「精々、自分達がやったことの意味を学んでこい」


 その言葉に、自分の運命が確定したことを理解した使用人達が、力なく項垂れる。


「ふぅ」


 その姿に、もう反抗する気など欠片もないだろうと理解した私は、小さく、本当に小さく息をついた。

 これでようやく大方の片がついたと判断して。


 ソーラスや、アイーダとソイラにカナリア。

 それらの人間の想像以上にしつこい抵抗に私は強い疲労を覚えていた。

 とはいえ、罰を言い渡すだけで使用人達の処分が終わる訳ではなく、その処理は部下へと任せることにした。

 私はバルトの方へと向き直り告げる。


「バルト、あとは頼んだ。私は少し外の空気を吸ってくる」


「はい。お任せ下さい」


 そう告げた後、すぐに処理に取り掛かる有能な側近の姿に、私は感謝を抱きながら部屋の外へと歩き出す。


 あからさまに疲労で顔を歪めてみせ、私の後について行こうか申し出る護衛達を、一人になりたいからと断りながら。

 あくまで表面上は、まるで疲れきったような態度を装いながら、俺は外へと歩いていく。


 ……そんな自分の背中に、何者かが視線を向けていることに気づきながら。



◇◇◇



次回から、カーシャ視点となります。

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