第36話 ソーラス視点
少しの間、客室を沈黙が支配する。
アルフォートがエレノーラを切り出したことに、少しの間私は言葉を失う。
だが驚きこそすれども、私が慌てることはなかった。
私は先程までの焦燥が嘘のような笑顔を浮かべアルフォートに告げる。
「なんのことでしょうか? 言い訳も何も、心当たりがありませんね」
アルフォートが掲げた時計、王家の刻印が刻まれたそれへと、私は目をやる。
それはアルフォートが国王から下賜されたとされる時計だった。
王家の刻印が刻まれたものを渡すというのは、国王がてもっとも信を置いている貴族という証しとなる。
公爵家が国王から貰ったのはそれだけではなく、その時計と共に貴族を裁く権限を王家から認められた。
──本来、王家しか有せない権限である一つである権限にも関わらず。
それこそが、元は他国の王族であったのも拘わらず、現在の公爵家が貴族社会に絶大な権限を有する理由。
貴族を裁ける権限とは、それほど大きな力なのだ。
そして、アルフォートが時計を見せているということは、侯爵家をその権限で裁こうとしていることを示している。
しかし、それを理解しながらも、絶対にエレノーラに関して罪にとらわれないことを知っている私に動揺はなかった。
悲痛そうな顔を作りながら、私はアルフォートへと口を開く。
「エレノーラを虐げていた? そんな事実などありませんよ。いえ、それどころかエレノーラは侯爵家では好き勝手に動いていましたから」
「……っ!」
私の言葉に、アルフォートの顔に小さく苛立ちが浮かぶのが分かる。
その態度で、私の嘘をアルフォートがあっさりと見破ったのが伝わってくる。
が、それでも私は気にせず言葉を続ける。
「エレノーラが逃げ出したのは事実です。だがそれは、使用人を虐めるのをやめるように言った所、逆上しただけのこと。他の皆様に迷惑をかけないように探していますが、あくまでそれだけの話です。」
「ほう。では、密告も嘘であると?」
「ええ。どうせ、エレノーラが逆恨みして作り上げた嘘を信じた馬鹿の仕業でしょう。信用する方が愚かというもの」
自然に、エレノーラに全ての責任を押し付けながら私は笑う。
そうすることを当たり前だと、エレノーラはそんな存在だと決めつけて。
「なんなら、エレノーラの実家である伯爵家に確認して頂ければいい」
──伯爵家が侯爵家の味方である限り、エレノーラは私の奴隷なのだから。
◇◇◇
最初短編予定だった本作なのですが、想像以上に長引いてしまったため、途中にエレノーラ視点を入れようと考えております。
和数もずれると思います。
中途半端になってしまい、申し訳ありません。
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