第19話 ソーラス視点

「それにしても、エレノーラはあの辺境伯の所に転がり込んでいたのか……」


 急ぎ準備を整え、辺境伯の屋敷に行くために乗り込んだ馬車の中、私はそう小さく囁いた。

そんな私に、目の前に座っていたカーシャが頷き口を開く。


「そういえば、奥様が最初に問題を解決したのは、辺境伯との不正の問題でしたものね。自分を助けて貰えると勘違いしてもおかしくありませんわ」


「ああ、全くだ。どうしてあの辺境伯に力を借りようなど考えられたのか」


 カーシャに頷き返した私の頭に浮かぶのは、もう長い期間会っていない辺境伯の姿だった。

 もう50は超えているはずなのに、鍛え上げられた身体を持つ白髪の貴族。

 それが、辺境伯ハイリッヒ・マルレイアだ。


 無口で気難しいことで知られる辺境伯には、社交界にはほとんど出ることなく、貴族で親しい付き合いをしている人間は少ない。

 が、この数十年の間に渡り、隣国を抑えてきた実績と、国王に絶大なる信頼を置かれていることにより、貴族社会では無視できない存在だ。


 そんな辺境伯に対して、正直私はあまりいい感情を抱いてはいない。

 私の父と交流があり、今でも大きな交易をしている間柄ではあるが、以前ありもしない不正を理由に交易を断られかけたのだ。

 その時はエレノーラの働きで何とかなったが、そんなことがあって辺境伯にいい感情をいだけるわけがない。


「とはいえ、その気難しさのお陰で、今回私達はエレノーラの居場所を知ることが出来たのだがな」


 だが、今だけは私は辺境伯の気難しさと頑固さに、感謝を抱いていた。

 そんな辺境伯だからこそ、あっさりとエレノーラを私たちに引き渡すべく連絡してくれたのだろうと。

 エレノーラの有能さを知っている別の人間ならば、自分の家に囲おうとしてもおかしくはないのだ。


「運が味方をしたか」


 そう細くえむ私を載せた馬車は、どんどん辺境伯の屋敷までの距離を縮めていく……。

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