第18話 ソーラス視点

 貴族社会へと、エレノーラが失踪したと大々的に広めてから一日。


「……まだ、どこの貴族からも有益な情報はないのか」


 その間私達は、一切エレノーラに関する手掛かりを得られていなかった。

 稀に侯爵夫人が失踪したのをチャンスばかりに、娘を紹介しうとする貴族からの連絡があるが、それだけ。


「公爵家からの連絡を誤魔化すのにも限界がある。それまでに、何とかエレノーラを見つけなければ……」


 ……その現状に、徐々に侯爵家内には焦りが募り始めていた。

 使用人達や、愛人達もエレノーラを馬鹿にはしていたが、その能力の高さは理解出来ている。

 故に今、侯爵家内の雰囲気は最悪なものとなっており、そのことも私の心を蝕む要因となっていた。


「どうして、今何だ……! ようやくあの生意気なエレノーラが素直に言うことを聞く状態になったと言うのに!」


 衰弱しながらも、ちょうど侯爵家の問題を解決出来るぎりぎりの状態となったエレノーラ。

 そんな彼女の姿は、生意気だった頃の姿を知っている私にとって、何とも小気味のよく、便利な存在だった。


 だが、そうなった途端に訪れたエレノーラは失踪した。


「くそ! 何故あの女は私の思い通り動かない!」


 私は八つ当たり気味に傍にあった机を叩く。

 強い憎悪が私の中で膨れ上がる。


「絶対に許しはしないぞ、エレノーラ。お前を見つけたら、もう二度と反抗する気など起こさないほどに……」


 そう呟き、私は強く拳を握りしめる。


 慌てたような足音が響き、部屋の扉がノックされたのはその時だった。

 それから、興奮したようなカーシャの声が響く。


「当主様、マルレイア辺境伯からお手紙が来ました!」


「……っ!」


 古くから付き合いがあるマルレイア辺境伯からの手紙だと聞いた瞬間、私は急いで椅子から立ち上がり扉を開ける。


「て、手紙です!」


 急いで持ってきたのか、少し息があらいカーシャからその手紙を受け取った私は急いで封を破る。


「見つけたぞ、エレノーラ!」


 そして、手紙の中に「ご夫人のことについてお話がある」と書かれた一文に、笑みを浮かべた。


「っ! とうとうですか!」


 私の言葉にカーシャも興奮気味に笑みを浮かべる。

 そんなカーシャに、急いで辺境伯の屋敷に行く準備をしろと命じた後、私は小さく呟いた。


「……待っていろよエレノーラ。お前は絶対に逃がしはしない!」


 隠す気のない、憎悪と歓喜を込めて。

 戻ってきたエレノーラに、どんな処罰を与えるかを考えながら、私は自分も準備をし始める。



 ……後に「夫人のことについての話」を、エレノーラを見つけたのだと思い込んだ自分を恨む未来を知る由もなく。

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