第16話物語の終わりはいつもこの言葉でしめくくられる
―ドミニク視点―
古い古い書物がある。
あまりに古すぎて王都の学者や、教会のお偉いさんからも、すっかり忘れ去られた一冊の書物が。
それによると、女神はその時代の王、もしくは次の王になる者の前に現れる。
つまりは、女神を最初にみつけたやつが次の王ってこと。
女神がレヴィン王子の前に現れた時点で、レヴィン王子が次の王になることは決まっていたんだ。
その書物のことを、皆が忘れていてよかったと思う。
王が崩御されたあと、宮殿の倉庫の大掃除してたら偶然発見され、そのまま焼却処分されるところだったのを、学者の一人に拾われたらしい。
多分大昔の王が、女神が別の者のところに現れて、自分が廃位されることを恐れたんだろう。
時の王は【女神は発見者のものではなく、時の王のものだ】と、史実を書きかえた。
次第に書きかえられたことすら忘れ去られ、女神は王のものという古い伝説だけが残った。
それが幸いした。
レヴィン王子の兄上が事実を知っていたら、レヴィン王子は殺されていただろう。
王はレヴィン王子に女神の監視をさせ、その間に正室と側室の粛清を行った。
王に他に妻がいては、女神を迎えることができないからだ。
王にとっては、子を生めない無能な側室を切り捨てるいい機会だったのだろう。一度情を交わした女たちを、なんのためらいもなく排除した。恐ろしいお方だ。
王がレヴィン王子に女神を預けていたのは、信用しているからじゃない。
正室と十二人の側室を粛清する前に、女神を王都に連れていけば、王宮のゴタゴタに巻き込むことになる。
最悪、いきり立った側室が女神を殺すかもしれない。そうなっては元も子もない。
かといって他の貴族に任せたら、女神を寝とられる。
世界一ストイックに生きているピュア童貞の弟なら大丈夫だろうと、王はレヴィン王子をあなどり、女神を預けておいたのだ。
その間に清らかなお二人が、心のつながりを深めているとも知らずに。
両思いなのに、キスどころか、手をにぎろうとしない。
お二人とも見てるこっちが恥ずかしくなるぐらい純粋で。
5歳児の恋愛の方が、まだすすんでると思ったね。
そして王の誤算がもうひとつ、正室の粛清に思ったよりも時間がかかったのだ。
側室はすぐに叩(たた)きだし、歯向かう者は容赦なく殺したが、高位貴族出身の正室はそうはいかなかった。
どろどろの愛憎劇のはて、正室が刃物を持ち出したところに、二人に雷が落ち、二人同時に亡くなった。
死ぬときまで一緒とは、仲がいいのか悪いのか分からないお二人だ。
そんな訳で、第一王位継承者のレヴィン王子に王位が転がりこんできた。
正室との争いの最中ゆえ女神の王都行きを送らせろと、レヴィン王子様に伝えに行くはずだった使者は、王の崩御を知らせる使者へと早変わりした。
★★★★★
それからレヴィン王子はどうなったかって?
レヴィン王子様は王位につき、名君となられた。
オレの主のレヴィン様は、わがままで世間知らずに見えて、やるときはちゃんとやる人なんだよ。
いまではわがままも性格もなりをひそめ、世情や国政に聡く、民から慕われ、歴史に名を残す聖君(せいくん)となられた。
過大評価し過ぎだって?
幼いころからお仕えしていたレヴィン様が王位に就かれたんだ、このくらい言わせてくれよ。
レヴィン王と女神の二人の行く末はどうなったかって?
物語の終わりはこうに決まっているだろ。
二人は結婚し、末永く幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし――――。
★★★★★★★★★★★★★★★
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