さあ、未だかつて誰も 観測《み》たことも無い 超次元《じげん》へ……。

「先生、VRって何すか?」

途中から話に飽きて、部室で一人ソファーに寝転びながらスナック菓子を食べ漫画を読んでいた宙。

『うわの空』ならぬ『うわのそら』で話を聞いていたはずの彼女が再び話に食いついてきた。


「宙、汚いからまずその鼻くそほじる癖治しや!」


「ほーい!」


「も〜、話脱線してもうたやん。

確かVRの話だったな。

VRとはヴァーチャルリアリティー 仮想現実のことや。

これを使えば、現実では有り得ない世界をみせることができるんや。

使うのは『特殊なコンピューター』と、

脳派をコントロールする

『ヘッドマウントディスプレイ』や」


「ヘッドマウント……ええっと」

みんなは固まった。


「ヘッドマウントディスプレイ。

つまり いろんな機械が入ったゴーグルを使うんや」


「あの先生?」


「何や真智?」


「その でしたっけ?

それは今どこにあるんですか?」


「それは今この学校には無い」


「無い!?

じゃあ、どこにあるんですか?」


「なあ真智、順を追って説明するから

少し待ちや」


「はい」


「うちらが使おうと思っているVRの装置は、

脳波をコントロールして脳の記憶や意識自体をバックアップして書き換えたりする高度な機械なんや。

そしてその機械は今、うちの研究室がある恥異賭大にある」


「谷先生、その恥異賭ちいと大学って名前、

いかにも手段を選ばずゲスイ ことやってそうな名前ですね?」


「はぁ~、真智~、お前なぁ~」


「あたし、的外れなこと言っちゃいました……?

すみません……」


「真智、お前鋭いこと聞くな~?」


「え? どういう意味ですか?」


「まあ・・・だいたい合ってる」


「合ってるんですか~い!」

真顔でそう平然と言ってのける谷先生の反応に、

真智は思わずその場にズッ転けた。


「話を戻すで。

本当は大学の決まりで部外者立ち入り禁止なんやけどな。

今日は規律にやかましい大学関係者がおらんし、うちとグリ2人だけじゃなく、特別にお前らも連れていったるわ」


「いいんですか~?」


「いいで。

お前らも来るか?」


「ねえねえ、四葉ちゃん? 宙?

二人とも来るよね?絶対来るよね?

選択肢は、

【もちろん来る】か

【あたしに従がって生き延びる】か

【ここで死ぬ】

のどれかしかないんだけど、どうする?」


「そうねえ~、真智ちゃんがそこまで言うなら

私も行こうかしら~」


「やった~! 宙は? 宙ももちろん行くよね?」


(真智お前、四葉のスルーは言いんかい!) 

「谷先生、今何かあたしに言いました?」

「いいや、なんでもあらへん」

「そうですか」


「あたいはパス!」

先の真智の質問に対しての宙の答えだ。


「え~、どうして? どうして?」


「あたいはお前らみたいに機械とか科学とかあんまよ~わからんし、興味ない」


「え~、そんなこと言わずにさ~!

ねぇ~宙ってばぁ♪」


「あ!あたし今いいこと思い付いた!」


(ゲェ•••、

こいつ『真智』が思いついたことで今まで良かった試しは一度もない。

 そう、それはまるでどこぞの世界の宇宙人•未来人•超能力者とお友達なツンギレ美少女のように)))

奇遇にも、四葉•宙•谷先生。

3人の気持ちは寸分違わず一致した。


「今度の夏休みの宿題の事だけどさ。

数学と化学は宙も必修授業でとってたよね?

数学と化学あたしが宿題写させてあげるから、ね?」


「ふぅ。

(珍しくまともな答えで良かった)

う~ん、そうやな~、どうしよっかな~」


「ねえ~真智ちゃん? 宙ちゃんは子犬が大好きだから、

真智ちゃんの家の子犬を触らせてあげたら?」


「そっかー! じゃあこうする。

VRに一緒についてきてくれたら宿題だけじゃなく

あたしんとこの『のん吉』をモフモフさせてあげる!」


「あんなことや、こんなこともいいのか?」


「い……、いいよ。別に好きにして」


「よし! それのった!」


 こうして、真智•谷先生•グリ•四葉•宙

の5人は恥異賭大学の先生の研究所へと向かう。




 道中ずっとおしゃべりに夢中になっていた真智達は、気付いた頃には既に大学の敷地のすぐ近くまで来てしまっていた。


「先生、ここって大学の裏口じゃないです~?

ここから入って大丈夫なんですか~?」


「四葉心配するな。

学内の警備システムの開発にはうちも関わっててな。

ここでこうやって、よし! できた。

 もうついてきていいで!

警備システムに管理者権限を追加させたから、

ロボット、監視カメラ、オートロック一式はもううちらには機能しない」


「は、はい」


 谷先生の研究室ラボにはじめて入った真智達。

 そこには、見たこともない実験器具や大型装置、

そして、ウインボウズとムックのパソコンが合わせて10台くらい置かれている。


「それにしても、先生。この作業テーブルの上、

汚ったな~いですね」


「こら! 順番に重ねてるんや。

勝手にさわるなや!」


「はいはい」


作業テーブルの上には、山積みの分厚い本と、

英語で書かれた論文らしき紙の山で埋め尽くされていた。



「よし、準備出来たぞ! お前ら、こっちだ!」


 真智達が谷先生の方を振り向くと、

何やら重箱くらいの大きさの白い装置一つに、ずっしり大きめで目を被うかぶりものの装置5つが太いケーブルで繋がっていた。


「すご~い! これを使うんだ~!」


「こらこら! 真智! そんな乱暴に触るな!」

 真智が重箱くらいの装置を軽く持ち上げて眺めているところを谷先生はそう言って止めに入った。


「アハハ~、つい興味を持っちゃって。すんません」


「悪い真智。でもわかって欲しい。

脳の記憶や意識のバックアップ情報は全てその機械にだけにしか保存されないんや。

 だからもし万が一壊れでもしたら……終しまいなんや」

 真智だけでなくみんなの前でそう注意する先生の目は真剣だった。

 真智は言われたとおり慎重に扱うことにした。


 谷先生の指示に従い、みんなはゴーグルをかぶり、準備を終えた。


「お前ら?

じゃあ、今からスイッチ入れるでー!?」


「はーい!!」」」


谷先生がそう言った直後、あたしは目を瞑り、

電子機器のファンの音に意識を集中させた。


まるでジェットコースターのように急速に体が軽くなっていく……。

真智は不安な気持ちでいっぱいだった。


(自分の体は存在しているのかな……)




 しばらくすると、

目覚まし時計に使われていそうな電子ブザーの音が耳に入ってきた。


「着いたかな?」


真智は恐る恐るゆっくりと両目を開けた。


 暫く目を瞑っていたせいか、眩しさのせいで周りが見えない。

それでも、暫くすると目が慣れて辺りがはっきり見渡せるようになった。



そして……、

真智は目の前に広がる信じられない光景に、

我を忘れ、驚きの声すらあげることが出来なかった。


——————————————————————

【登場人物】

真智まち

•四葉

そら

•谷先生

•グリ

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