第3話 お姫様は考える

 密かにグランドクロスに出場することを企んでいたロクサーヌだったが、空中騎士団への訓練参加を言い渡されてしまった。

 どうやら父親である皇帝はロクサーヌの行動を予想していたようだ。

 空中騎士団は、国中から腕のいいパイロットたちを集めた航空部隊だった。

 皇帝に忠誠を誓う騎士団からの名残りで空中騎士団と呼ばれている。

 家柄を優先しての選抜だったが、やがて一般飛行士からも飛行士を募ることになった。

 一部の貴族からは問題視されたが、通常の飛行隊より練度が低かったことを嫌った空中騎士団の指揮官が強引に一般飛行士の編入を推し進めただった。

 そのかいあってか、国外からも注目される飛行部隊となっていた。


「どうする? ロクサーヌ」

「うーん……訓練への参加がグランドクロスの開催期間だなんて。これは父上の策略とした思えない」

「空中騎士団も憧れてたじゃん。いいの?」

「確かにそうだけど……この国がスタートになるなんてこと今後、あるかわからない事だし、なによりも父上の策略にのるなんて絶対嫌!」

「とはいうけどなぁ」


「た、大変です! 姫様」

 マヤがかけこんできた。

「どうしたの? マヤ。また執事長が何か……」

「いえ、違います。もっと大変なことなんですよー!」

 マヤは必死の表情で続けた。

「真紅の薔薇号が! 真紅の薔薇号が」



 飛行場の倉庫へ駆けつけるロクサーヌたち

 目の前を真紅の薔薇号がレッカーに吊られ運ばれていく。

「嘘でしょ? まってーっ!」

 ロクサーヌは運ばれていく真紅の薔薇号を追いかけた。

 運転手は、ロクサーヌの声に気がついてアクセルを緩めた。

「こりゃ、姫様じゃないですかい? どうも、どうも」

 愛想よく、頭を下げる運転手は見知った顔だった。

「ねえ、これはどういうこと?」

 ロクサーヌが尋ねた。

「どうって?」

 ロクサーヌは、真紅の薔薇号を指さした。

「ああ、これですか? 皇帝の命令で空中騎士団の訓練地へ運搬するところでして」

「はあ……? 父上が?」

 さすが、知略の皇帝。先手を打ってきた。

「でも良かったですね、空中騎士団への訓練参加。ずっと憧れていのは俺らも知ってましたから。ああ、俺らってのは、整備士や街の飛行士仲間のことですがね」

「あ、ありがとう……顔が広いんですね」

「でも、みんなロクでもない連中ですよ。でもみんな姫様のファンなんですよ。この前も空中戦艦をやり込めたとか」

「ははは……」

「訓練所のある飛行場までは俺らが無事に輸送しますんで任せてください。それじゃ、どうも」

 整備士は頭を下げると真紅の薔薇号を牽引したレッカー車を再び走らせた。



「真紅の薔薇号を取られてら何もできないよ」

 肩を落とすロクサーヌにリュカが声をかけた。

「ロクサーヌが憧れてた空中騎士団の訓練に参加させる。陛下からすると筋は通っていますしね」

 マヤも同情気味にそう言った。確かにそのとおりだ。

「私が前から頼んでいたことだしね……文句をいわせないってことよ」

「でもそんなにロクサーヌを”グランドクロス”に参加させたくないのかなぁ」

「私もあれからいろいろグランドクロスの耳にしましたが、事故も多いという話です。きっと陛下はロクサーヌ様の身を案じてのことでしょう」

「それを言うなら、空中騎士団の訓練だって危険だろ」

「あまい。父上のことだから、地上での訓練だけしかやらせないつもりよ。筆記試験とか、整備講習とか……ね」

「でも、陛下のご命令ならどうしようもありませんよ。どうでしょう? グランドクロスは、次回の大会を目指すということで」

「そうだな。リュカの言う通りかも。準備には時間がかかるすし、そもそも飛行機がなけりゃ……」

「まだ手はある!」

 そう言ってロクサーヌはレッカー車を追いかけた。

「まってくださーい!」

 ミラー越しに映るロクサーヌに気がついた運転手は車を停めた。

「どうしやした? 姫様」

「すみません、お聞きしたいことがあるんですけど」

 ロクサーヌは、息を切らせながら吊り上げ作業をしている作業員に声をかけた。

「さきほど、お顔が広いということをおっしゃっていましたよね。お知り合いというのは当然、飛行機の専門家の方々ですよね」

「まあ……そういったのも多いですが。何かありました?」

「そのお仲間の中に中古の機体を扱っている方などいらっしゃいますか?」

「そりゃまあ、城下街は飛行機関の仕事が盛んだし、そういうツテはありますけど」

 整備士は小首をかしげて不思議がった。

「実はお願いがあるのですが」


 ロクサーヌと整備士が何やら話しているとリュカが息を切らせながら追いついた。

「ロクサーヌ、一体なんなんだよ……いきなり走り出して」

「ああ、リュカ。聞いて。私、いいこと思いついた」

「はあ? 何よ?」

 整備士が車から降りてくるとメモをロクサーヌに渡した。

「ここなら、適当なのを紹介してくれるはずですわ」

「ありがとう」

「いいえ、姫様の役に立てるなら」

 整備士は会釈するとレッカー車に戻っていった。

「ロクサーヌ、それなによ?」

 リュカがロクサーヌの手に持った紙切れを覗き込む。

「中古の機体を売ってる店の住所」

 ロクサーヌは紙切れを揺らして見せた。

「機体? それってまさか……お前」

「そっ、新しい機体を手に入れる! 策略には策略よ」

 ロクサーヌがリュカにサムアップした。



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