インタビュー・ウィズ・ソルジャー

ももち ちくわ

第1話 名も無き戦闘員 その1

 ――初めまして。フリーライターの一文字・恒彦いちもんじ・つねひこと申します。『秘密結社の謎を追え』という企画に賛同していただき、ありがとうございます。


「いえいえ。一兵卒でしかない俺の話なんかで良ければ、いくらでも質問してください」



 ――では、さっそく……。ずばり、年収は?


「いきなりですね(笑) 月々の手取り12万円ほどですが、夏と冬の賞与が3カ月分。あと色々と特別手当がありまして……。まあ、ざっと言えば200~600万円ほどになるかも?」



 ――ほう……。それは興味深いですね。ひとによっては大きな差が出てきますね?


「いやあ。なんと言いますか……。特別手当が色々とあってですね」



 ――例えば?


「例えばですか。うーーーん。1回の戦闘出撃で3000円の危険手当がつくんですよ。連続出撃となると倍々に膨れ上がりますね」



 ――なるほど。ヒーローとの戦闘では怪我がつきものですから、連続で戦闘に出られるってことは、それだけ有利に働きますものね。


「まあ、たいていのひとは3回に1度は大怪我をしますけど(笑) だから、この危険手当ってあんまり美味しくないんですよね……」



 ――怪我をしてしまった場合は、その間は無給となってしまんですか?


「いや、そんなことはないですよ。傷病手当が出ます。しかしながら、雀の涙程度ですが……」



 ――出るだけマシといったところなんですかね……。他にこの組織ならではの手当てと言えば?


「うーーーん。他の秘密結社と違う手当ですが。私は他の組織に入ったことはないんではっきりとは言えないのですが、1年生き残るごとに生存手当ってのがありまして」



 ――『生存手当』? 聞いたこともない手当ですね?


「いやあ、うちは創立100年を迎える秘密結社なだけあって、ヒーロー連盟からは恰好の的になっていますので……。それゆえに、戦闘員の死亡率が他の組織と比べて圧倒的に高いんですよ」



 ――なるほど……。それゆえの生存手当というわけですね?


「はい、そうですね。1年、戦闘員として生き延びると、生存手当として200万円が口座に振り込まれることになります。5年間生き延びると、1000万円を超えるらしいです」



 ――『らしい』? 少しひっかかる言い方ですね?


「ははっ。そりゃあ、5年間の生存率が0.1%程度ですし(笑)」



 ――うわあ。そんな厳しい職場環境でよくあなたはやっていけますね?


「いや、死亡手当が手厚いので、残された家族も安心なのですよね……」



 ――なるほど……。なんと言って良いのか、言葉が見つかりません……


「気にしなくても良いですよ。脱サラをして破産しちゃった私を拾ってくれた組織ですし。私はこの秘密結社には感謝していますので。一家心中をしちゃうよりかは遥かにマシでした、ははは……」



 ――そう、ですか……。ところで死亡手当はおいくらほどに?


「いえ、具体的な金額は知らないのですが、なんでも死亡後は怪人に改造してくれるようでしてね? 本当の意味でのセカンドライフが始まるんですよっ!!」




 私はここまで彼に質問した後、何故だか知らないが、両目から大粒の涙が零れて落ちてしまう。私は彼がなるべく長く秘密組織で生き残ってもらえることを願うばかりである。


 しかし、人生とはなんと無情かな。インタビューから3カ月後、テレビのニュース『本日の戦闘員死亡者リスト』で彼の名前を見つけてしまったのであった……。

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