弥生の起源

育岳 未知人

第1話 プロローグ

 私の最近のマイブームと言えば、借りてきたビデオで韓流ドラマを観ることである。私は光一、五十歳。ふとしたことから弥生時代の歴史に興味を持ち、本まで出版してしまった。そんなある日、妻の文江と近くの韓国料理店で夕食をする機会があった。店の中は少し年配の奥様たちや、まだ若いOL風の客などで、かなり賑わっていた。私たちは、空いているテーブルに着くと、海鮮チヂミとチーズダッカルビ、それにジンロをグラスで注文した。すると、気のいいマスタは、韓国海苔とキムチまでサービスで追加してくれた。料理の味はいいが少し濃いめの味付けに、お酒が進む。私は、マスタに尋ねてみた。

「朝鮮半島の歴史を勉強したいんだけど、楽しく勉強できるようないい教材はないですか?」

彼は、少し考えてから、アドバイスしてくれた。

「それなら、韓流ドラマの歴史ものなんかはどうですか?」

「韓流ドラマか。それはいいですね。」

「3世紀以前の頃のものとかあります?」

「それでしたら、朱蒙(チュモン)なんかがいいんじゃないですか。」

「朱蒙(チュモン)かあ、今度レンタルビデオを借りてみようかな。ありがとうございます。」

「韓国について興味を持ってもらえるのはうれしいですが、・・・」

マスタの話が終わらないうちに、他の客の注文が入り、それっきり話は途絶えた。

「お父さん、今度は韓国の歴史なの?」

「いやあ、日本の歴史を調べていくと、東アジアの歴史も知りたくなってね。まずは、朝鮮半島の歴史を調べたくなったんだ。」


 私は、明くる日にさっそくレンタルビデオを借りることにした。ビデオ店には、韓流ドラマが所狭しと並んでいる。その一角に歴史ものの朱蒙(チュモン)のDVDはあった。朱蒙(チュモン)は全部で39巻ある。私は取り敢えず1巻目を手に取った。1巻には2~3話収録されている。今から2000年以上前の高句麗建国神話に登場する高句麗王 朱蒙(チュモン)の物語らしい。他にも面白いビデオがないかと別の棚を見回すと、海神(ヘシン)のDVDがあるではないか。以前に弥生の歴史を調べていたときに、出会った海神(わだつみ)と同じである。朝鮮半島にも海神はいたのか?気になった私は、海神(ヘシン)のDVDも借りることにした。

 

 私は、韓流ドラマの海神(ヘシン)のことを考えていた。このドラマは統一新羅時代の9世紀が舞台とのことだが、日本の神話にも登場する海を司る海神(わだつみ)は、史記の淮南衡山列伝の記述で、紀元前219年頃に渡来した徐福と出会ったことになっている。したがって、紀元前3世紀頃には日本に居たはずである。以前に古事記の日本神話に登場する海神(わだつみ)をネットで調べていたら、史記の淮南衡山列伝にも徐福の話として登場するのを確認していたのだ。ヘシンとわだつみは同じ海神ではあるが別人なのだろうか。海神(ヘシン)に主人公として登場する東アジアの覇者チャン・ボゴ(配役:チェ・スジョン)は、韓国の三国史記と言う歴史書では、身分の低い反逆者として記されている。しかし、ドラマでは、東アジアの海上貿易を牛耳った覇者たる海神(ヘシン)が英雄として描かれている。

そして、悪役ではあるがその盟友でありライバルとして描かれているヨムジャン(配役:ソン・イルグク)は、三国史記では、海神チャン・ボゴを王の命を受け討ち果たした英雄として記されているらしい。さらに、ヨムジャンを演じたソン・イルグクは、海神(ヘシン)以上に大ヒットした朱蒙(チュモン)で高句麗を建国したとされる主人公 朱蒙(チュモン)自身の役をも演じている。朱蒙(チュモン)は、高句麗の年代から推定すると、紀元前1世紀頃の人物である。三国史記には、夫余の神話とよく似た卵からの誕生と建国の神話が記され、高句麗の始祖で諱が朱蒙、諡が東明聖王とされている。朱蒙のビデオには、古朝鮮の再建を願って漢と戦い負傷した解慕漱(ヘモス)将軍(配役:ホ・ジュノ)を、その妻となる河伯(ハベク)族の柳花(ユファ)姫(配役:オ・ヨンス)が助けることで出会い、哀しい出来事が展開する中で、朱蒙(チュモン)が生まれ、やがて父の意志を継いで古朝鮮の復活となる高句麗を建国して行くという物語が収められている。


     『海神(わだつみ/ヘシン)』 

韓流ドラマ 9世紀の航海王の英雄 

三国史記  身分の低い反逆者

日本神話  紀元前3世紀の海を司る神


     『朱蒙(チュモン)』

韓流ドラマ 高句麗の始祖で諱が朱蒙、

      諡が東明聖王

三国史記  紀元前1世紀の高句麗建国王

      の英雄

日本神話  記載なし


 朱蒙(チュモン)は、日本神話には登場しないので、明らかに朝鮮半島の人物であることがわかる。ここで、わだつみ=ヘシンとすると、日本では海を司る神が、朝鮮半島では、身分の低い王に対する反逆者とされ、韓流ドラマでは昇華されたものの時代背景が白村江の戦いで日本が敗戦した後の統一新羅時代となっている。海神(わだつみ)の末裔は安曇族で、白村江の戦いで敗退する。海神(ヘシン)チャン・ボゴとは、この安曇族の水軍を指しているのではないだろうか。これを見ると、日本と朝鮮半島との関係は、韓国併合よりずっと昔から、相容れない関係にあったことが窺われる。しかし、朝鮮半島のみの人物である朱蒙(チュモン)のビデオに古朝鮮のシンボルとして描かれている三足烏(さんそくう)は、高句麗壁画に刻まれていると同時に、中国では長江文明に、日本では八咫烏(やたがらす)として登場する。そして、日本サッカー協会のシンボルマークにもなっている。また、日本にも多くの朝鮮人(韓国人)が在住し、美味しい韓国料理店や、スレンダー美人・イケメン男子のアイドルグループが活躍している。私は、どこかでボタンを掛け違えたのではないかと歴史を紐解いてみたいという衝動に駆られた。

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