もうヒナちゃんはマガママなんだから!

いすみ 静江

第1話 ぼくのとびきり

 ぼくは、ヒナちゃんのお兄ちゃん。

 ぼくには、ユウちゃんって名前があるけれど、ママにもお兄ちゃんって呼んで欲しいとお願いしてあるんだ。

 これは、ぼくがヒナちゃんと出会ったときのお話。


「ユウちゃん……。もう直ぐお兄ちゃんになるからね」

 ママはぼくが毎日耳をあてていたお腹をさする。

 それは、もうはちきれそうな風船みたいなんだ。

 ぼくがね、ママに喜んで貰おうと思った白い綿毛さんがあったね。

 ふうーと吹くと、皆、赤ちゃん達が飛び去った。

 新しい赤ちゃんベッドを探すんだろうね。

 ぼくもね、ママの赤ちゃんベッドでよく寝ていたらしい。

 くすす。

 何だか恥ずかしいや。


 ママ……。

 いってらっしゃい。

 転ばないんだよ。

 ママは大きな扉の部屋に吸い込まれていった。


 パパとぼくはね、ママの個室で待っていたんだ。

「とびきり美味しいオレンジジュースを飲もうか」

 パパは、とびきり屋さんで、オレンジジュースを買ってくれた。

 ちゅーっとすするとひんやりして、ほっぺたがピリピリする。

 ぼくは。パパににこっとした。

 長い長い時をぼくはベビーカーを押して待っていた。


 沢山の人に囲まれて、ママが帰ってきた。

 元気みたいで、ほっとしたよ。

 でも、ベッドを移されるとママしかいなかった。

 どうしたのかな。

 お腹の大きかったママの大切な赤ちゃん。

 赤ちゃんベッドが壊れちゃったのかな。


 ぼくは、心配する気持ちをパパとママに分からないようにして、にこにこしていたよ。

 パパが買ってくれたオレンジジュースに、きらめいた色を感じた。

 赤ちゃんは、きっとこのオレンジジュースみたいなのかな。

 とびきりに決まっているよ。


 すんと空気が変わる。

 廊下から音が入ってきた。

 大きな女の人達も入ってきた。

 白くてまあるい布が、ママの枕元にきた。

 白くてまあるい布から、とってもいい香りがする。


 ママがね、頭についているべとべとはとらないでくださいと教わっているよ。

 そして、ぼくの話になった。

 ぼくの時とは違うんだねって。

 ねんねしているのかな。

 静かに、静かにしている。

 きっと開いたら可愛いおめめだろうね。

 ああ、会いたいな。


 ぼくは、オレンジジュースをテーブルに置いたよ。

 パパ、ぼくにも会わせて。

 パパ……。

 よっこいしょとぼくは抱っこして貰った。

 ぼくは、ぼくの妹に手を伸ばした。

 初めまして、ヒナちゃん……。

 ぼくは、お兄ちゃん。

 仲良くしてね。


 飲みかけのとびきりは、ヒナちゃんにはかなわなかった。

 

 よしよしとおでこをさすったよ。

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