独白

幸いなことに



幸いなことに。…そう、とても幸いなことに。もう、ぼくの容器はからっぽだったのだ。入っていた夢希望哀しみ怒り、愛、愛、愛。

一体全体、どこで零してしまったのだろうか。液状のソレを探すのはとても困難なことと思われる。


幸いなことに、ぼくの周りにはひとが居なかった。愛してくれた彼は何処か遠くに行ってしまったし、仲良くしていた彼女は気付いたら海に沈んでいた。可愛らしいあの子と喧嘩した記憶は、とうの昔、親と一緒にゴミ箱に捨てたとおもう。


幸いだった。とても、しあわせだったのだ。

となりには縫いぐるみのアキチャンがいたし、暖かい手の温もりだってあった。



暗い部屋、パーソナルコンピュータと向き合うぼくの顔色はきっと青白いし、細くなった手脚はもうまるで人間のそれではない。

それでもぼくは、ブルーライトの海に身を委ね、今日も鬱々と物語を書き綴る。


0と1だけの世界、なくなることのない夢物語。消えることないラブストーリー。

終わらないSF小説だって、ぜんぶ、ぼくのしあわせになる。この指から、声から紡がれる世界は、すべて、ぼくのものなのだから。


そう、だからこれは、ぼくのしあわせ。

生きるすべて



……幸いなことに、わたしのしあわせは途絶えることはない。


これからも、ずっと。


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独白 @kuhakumumei_

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