少年自衛官 回想録

ロクマルJ

第1話 入隊・入校の動機

1990年代、私が15歳から18歳まで

陸上自衛隊生徒、現高等工科学校(当時少年工科学校)生だった頃の

体験記録を簡単に記していきたいと思います


第一話は私が自衛隊生徒、自衛隊に入ろうと思った理由について


まず【自衛隊生徒】とは15歳~16歳の者のみが受験資格を持ち

入校後3年間、体力錬成や勉学、自衛官としての必要な技術を養い

若き技術陸曹を育成するという建前の元、現在も存在する

旧陸軍幼年学校に近い自衛隊の制度である。


私が居た90年代の頃は、陸上・航空・海上の全てに生徒制度が存在し

それぞれ、航空は航空実科学校、海上は海上実科学校

そして陸上は少年工科学校という名前であった。


しかし現在では国際法上、少年兵云々の絡みにより

十数年前に海上生徒、航空生徒は廃止され

陸上も高等工科学校と名前を変える事となったが

今も尚、神奈川県の武山駐屯地に存在している。


少年工科学校から、高等工科学校に変更されるにあたり

変わったのは名前だけではなく、大きなポイントを上げると

現在の高等工科学校の生徒達は【自衛官では無い】

防衛大学校同様、卒業後、自衛官として任官するのだ。


私達少年工科学校生徒の頃は15歳で入校と同時に

陸上自衛官として入隊、職務宣誓も行い、

自衛官としての階級も与えられた。

(当時は3等陸士と言う、生徒1年生だけの階級が存在していた)

当然学生中も自衛官としての義務と責任も発生する為

給料や年金の支払い、退職金の積立も15歳の時から始まった。


しかし現在の生徒は違う、彼等は皆、ただ学生であり、自衛官では無い

従って彼等は階級も無ければ自衛官としての給料も発生しない。

卒業後、陸曹教育隊という改めて、下士官、

陸曹になる為の訓練課程に入校し、その時初めて自衛官として任官する。


最近卒業した後輩等の話によると実際の所、

3年間やっている事自体は今もそう変わらないそうだ。

であれば、自分達の頃と比べ、今の彼等を不憫に思う分もある


これが大まかに今存在する生徒及び、私が生徒だった頃の違いである。

その他の細かい制度的な内容が知りたい者は、

今は情報化社会である、別に機密でも何でもない

ありふれた情報故、自身で調べて頂きたい。


ここで一旦話を本題に戻させて頂こう。

何故私がその様な所へ行く事を選んだのか

それは簡単に行ってしまえば、私の出自が主である。


私の父親も少年工学校の出身であった。

父方の爺様も旧陸軍幼年学校、その又前も軍家、武家へ

母方の爺様も海軍予科練、と

何方を向いても所謂筋金入りの軍人家系だったのだ。


今日こんにちに於いて、家柄だとかそんな時代じゃないでしょ

と、思う者も多いだろう、実際当時子供だった私自身

そう言う血筋だとか伝統だとか家柄だとか、深く理解していた訳ではない。


全く異なる環境で、全く異なる価値観と常識の元、育った人に

共感してもらう事は難しく、出来ないのは当たり前だと思うが

幼少期から育つ環境というのは人間の幹を作るもので

物心つくかつかぬかの頃より

「お前は武家の長男だ、もっと自覚を持て」

「お前の中に流れる血は脈々と先祖から受け継がれてきた物だ」

「そこにどれ程の繋がりがあり、今、お前の番になっているか分かるか」

「儂も生徒出身だ、爺様も幼年学校出身の陸軍将校だ」

「ひい爺様も、その前も、その又前も、足軽なんか一人も居らん」

「貴様だけが落ちこぼれるのか?たった一人お前だけが出来ないのか?」

その様に非常に強烈なプレッシャーを受けて育った。


それでもまだ子供だった私は、

常に胸に引っかかる物を感じつつも

あまり実感として理解出来ないでいた。


そしてこの道を決定づけたのは、私が14歳、中学2年生の時の事、

ある時、親父に呼ばれ対面に座らされ、突然

「貴様を普通の高校に通わせてやるつもりなど無い」

「自分の生き方を自分で決めたければ、その責任も自分で負え」

「自分の意思で学費も稼いで自分で行け」

「その覚悟がないなら今は儂の言う事聞け」

「死にもの狂いで勉強して少工校に行け」

そう真顔で言われた


余りに突然の事にまだ子供だった私は、突然世界が終わる様な、

真っ暗になった様に感じた、当時はまだほんの中学二年生だ、

まだ将来何がやりたいだとか、どんな風に人生を歩めばいいのか等

そんな物は全く頭の中にはなく

明日もまた同じ様な日が、当たり前に

続いていく様に思っていたからだ。


最近では大学に行っている様な方の中にも、

同じ様な方は少なくないのではないだろうか?


正直な所、少年工科学校には行きたくなかった訳では無い

幼少期から掛け続けられたプレッシャーは負の感情だけでなく

本音を言えば誇りと共に、軍隊や将校になる道、という物に憧れもあった


なら何故当時の私は道が閉ざされた、闇に落ちる様に思ったのか

それは私が勉学も馬鹿だったからだ。


自衛隊生徒の試験は

1次試験 学科試験

2次試験 身体検査

3次試験 身辺調査

という内容で行われる。


(尚、余談として身辺調査はその具体的な内容は明かされておらず

 親や親族に過激な活動に参加されている人物が居たり

 所謂アッチ系の国の人間とかかわりがある様な場合に落とされ

 3次試験で落とされた者は、以後、どの自衛隊の窓口からも

 何度受験しても決して通る事は無い、と言われる。)


調べて頂ければわかる事だが、生徒は防衛大と共に

勉学のレベルが低い物が入れる倍率ではなく

少年工科学校に入校する者は皆、

それぞれの中学校で学年トップ10に入る様な

成績を収めて居た様な者達が普通であり

尻から数えた方が早いであろう程度の、

言ってしまえば落ちこぼれ程度の学力しかない私が

受験した所で夢物語、映画の世界の様な雲の上の存在で、

入れる等全く思って居なかったのだ。


「貴様が本気になって目指すと言うのなら、その為の支援は幾らでも惜しまん」


という親父からの助け舟もあり、この時初めて私は子供ながら

【自分の意思で、自分の道を選ぶ事を決めた】


その後私は、テレビもファミコンも全て捨て

二年生で中学校に通うのを止め、塾に通い

自衛隊生徒の試験に合格する為”だけ”の勉強に集中特化し

1日18時間、文字通り寝る間を惜しんで

死に物狂いで勉強した。


言われたからじゃない、今ここで自分が頑張るか否かで、

自分の人生が決まるんだという事が初めて自覚出来たからだ。


そしてその1年後、いよいよ、生徒の試験に挑む事となる...


次回、試験編に続く

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