第6話 人と機械と
章太郎は全てを理解した。
「なるほど、わかりました」
「は?」
当の幸子は、きょとんとする。
「つまり、サンビームは地球人と異星人の
不意に田中が吹き出し、口元を押さえて肩を震わせる。
しかし、幸子の方は困惑した様子で、同僚と章太郎を交互に見てから、一つ咳払いをした。
「あなたがなぜ、そのような解釈に至ったかはわかりませんが、異星人による地球侵略が差し迫っていると言う点では間違えていません。そして、サンビーム氏が地球を訪れた当初の理由は、まさにそれだったのです」
章太郎は、幸子をまじまじと見つめた。
「サンビームが、
「はい」幸子は頷く。「しかし彼は、自らに課せられた任務を放棄し、地球を守るため力を貸したいと申し出てくれたのです。ところが……ちょっとした行き違いがあって、彼は我々のもとを去ってしまいました。そして我々は、彼が今、あなたのもとに身を寄せていることを知り、こうしてお願いに参ったのです。どうか、サンビーム氏が我々のもとへ戻るよう、あなたから説得していただけないでしょうか」
「行き違いって、一体なにがあったんですか?」
幸子は田中に目を向けた。大男は無言で頷き返し、それを見て幸子は章太郎に目を戻した。
「サンビーム氏は、地球の危機を報せようと、まずは市役所を訪れました」
「市役所」
「はい。そこで、いくつかの部署をたらい回しにされ、しまいには県の担当だから県庁へ行けと告げられたのです」
「県庁」
「ところが、県庁でも同じくたらい回しに遭い、最終的に、近くの陸上自衛隊駐屯地を訪れることになったのですが……」
「また、たらい回し?」
「いえ」幸子は首を振る。「見た目から爆発物の類ではないかと疑われ、分解されそうになりました」
形状的に、地雷的な何かと言われれば、そうかもと思ってしまうかも知れない。
とは言え、
「サンビームが逃げ出したのもわかるよ」
「はい。返す言葉もありません」
幸子は、大きなため息を吐いて続ける。
「我々が所属する宇宙渉外室は、地球外知的生命体とのコンタクトに対応するため作られた部署です。今回のサンビーム氏の件は、まさに我々が対処すべき事案でしたが、残念ながら彼の不信を買う結果となってしまいました。しかし、異星人による侵略と言う危機が差し迫っているとなれば、なんとしてもサンビーム氏との関係を繕わなければなりません」
常識的に考えれば、幸子の言うことは、まったくの眉唾ものだが、章太郎は、サンビームの正体が宇宙人であると、すでに本人から聞き及んでいる。それ自体が、もうずいぶん常識外であるから、これは話の真偽よりも、目の前にいる怪しげな黒服たちを、信用できるか否かに尽きた。
章太郎の判断は、幸子が美人である点を加えて、ようやく五分五分だった。名刺の肩書が本物である保証はないし、確認する術もない。
思い悩んでいると、幸子がサングラスを外し、少したれ気味の目で章太郎を見つめた。
「お願い、できますか?」
「あ、はい。頑張ってみます」
ロボ娘が好きだからと言って以下略。
教室へ戻った章太郎は、当然のことながら、校長室へ呼び出された理由を、誠にたずねられた。黒服たちから、会談の内容については他言無用と、別れ際に釘を刺されていたから、適当な話をでっち上げることにする。
「ロボット同好会?」
誠は、きょとんとする。
「前に創部の申請をしたんだけど、やっぱりダメだって」
「校長先生じきじきに?」
「うん」
実を言えば、創部の申請は本当だった。ただ、それは担当の教師の小言付きで、とっくに却下されている。
「どうせ、ロボ娘がどうとか申請書に書いたんだろう?」
正解である。
まあ、ともかく。うまく誤魔化せたようだ。
「ところでさ」と、誠。「今日の放課後だけど、どっか行かね?」
「部活は?」
「来月に中間試験があるから、今月は金曜日の部活を休みにして、勉強時間にあてるって決まったらしいんだ」
だったら遊んでないで、勉強したほうがよくはないか。
「ごめん、今日は先約があるんだ」
「何、デートかなんか?」
相手もいないのに、そんなわけがあるものか。
「大家さんの、買い物を手伝うって約束があって」
束の間の沈黙があった。
「あ?」
誠は不良漫画のキャラのように、顔を斜にして言った。頭の上に?と!が見えた。
「お前ばっかりずるいぞ。俺も、巨乳と美少女に挟まれたい!」
「僕も挟まれたことはないけど」
「黙らっしゃい」誠はぴしゃりと言った。「とにかく、俺も買い物手伝うから、一緒に帰るぞ。いいな?」
そんなわけで学校が終わり、二人はショッピングモールへとやって来る。数分前に、SNSで送られてきた翠子のメッセージによれば、大家母娘はすでに出発したとのこと。
二人は正面入り口から少し外れた場所にある、ベンチや自販機などが置かれた休憩所で待つことにする。
「お兄ちゃーん!」
十分余りが経過して、声があがる。目をやれば翠子と、手を振るセーラー服姿の桃子の姿があった。学校から帰り、鞄を置いて、そのまま家からやって来たと言う体である。
桃子は、テーマパークなどで見かける、立ち乗り式電動二輪車様の乗り物に乗っている。が、奇妙なことに、その乗り物には車輪がなかった。不思議に思って、T字型のハンドルが生えている足場の部分をよく見れば、円盤型のサンビームだった。家事以外に、このような機能があるとは、思いも寄らなかった。宇宙ロボットとは、どこまで万能なのか。
「あら、誠君も一緒?」
にこにこと微笑む翠子。
「こんにちは、大家さん。タケが買い物の手伝いをするって言うから、俺も応援に来ました」
「まあ、ありがとう」
「どういたしまして」
誠はイケメンスマイルを返し、さらに桃子へ目を向ける。
「桃子ちゃんも、こんにちは」
「こんにちは、友山さん」
桃子はサンビームから降り、はにかんだ様子で、お辞儀をする。
これだから、イケメンはズルい。ちょっと笑みを向けるだけで、章太郎には平気で鼻水を拭かせるような女の子でも、恥じらう乙女に変えてしまう。
その横で、乗り物役を終えたサンビームが、ハンドルを引っ込めガチャガチャと人型に変形する。
「え、なにこれ?」
ぎょっとする誠。
「私はサンビーム。ロボットだ」
「すげえ、カッコイイ!」誠は翠子に目を向ける。「どこで買ったんですか?」
「昨日、章太郎君が拾ったの。でも、たくさんお手伝いもしてくれて、とっても助かるし、もうウチの子にしちゃおうかしら」
翠子は、うふふと笑う。
「賛成!」と、桃子。「そうしたら、サンビームに乗って通学できるね」
道交法に抵触しそうな気もするが、大丈夫なのだろうか。
「申し出は嬉しいが」と、サンビーム。「やはり章太郎には、エネルギー切れで動けなくなっていたところを、救ってもらった恩がある。私自身の納得が行くまで、彼のもとに住まわせて欲しい。もちろん、今日のように手伝いが必要であれば、いつでも言ってくれ。その時は喜んで引き受けよう」
「お前、見た目だけじゃなく、AIもカッコイイんだな!」
誠は感心した様子で言った。
「ありがとう、友山殿」
「トモでいいぜ。友だちは、みんなそう呼ぶんだ」
「了解だ、トモ」
ロボと人の友情。章太郎的には、なかなかに萌えるものがある。燃えるの方かも知れないが、まあ、どっちもありだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます