後編 其の二



―7月28日(水)夕方―


―千代田区永田町 プルス・アウルトラ本部作戦室―



靴をコツコツ鳴らしながら目前のモニターをドミニクが伺っている。


ドミニク「まだッ…! 捕まえられないのですか?! 黒い男はッ!?」


苛つきが限界になったのか、周囲に怒鳴り散らす。


副長「…お言葉ですが局長…4月以降、最近では、救助の依頼量に対して派遣する術士のバランスが更に悪くなっており…差し出がましいのですが、黒い男捜索に人員を回すよりも、依頼の方を優先した方が宜しいのかと」


そこまで副長が進言すると、途轍もない剣幕でドミニクが捲し立てる。


ドミニク「何を言ってるんです!? 裏切り者は罰さなくては! そうでなければ次々と増長や離反者を増やす切欠になります! 許される行為じゃないんですよ! 裏切りは!」


副長「ですが、これでは…」


ドミニク「今、各地に向かっている人員で足りるでしょう? 足りなければ努力が足りないという事! やってみせなさい! プロでしょう? その分の資金(ギャラ)は出しているんですから!」


副長「いえ、人が足らず、情報が足らないのです サポートが出来ないのでは円滑に進めることが不可能です もう少し黒い男に対する追跡を緩めて…」


ドミニク「ダメです! 許されません! ヤツは最重要捕縛対象です!」


遮る様に怒鳴る。


副長「!… 了解しました」


そこで副長は口を閉ざした。


ドミニク「全くッ…何奴(どいつ)も此奴(こいつ)もッ…!」


ギリギリと奥歯を噛み締める。


あれ以来、あの4月の秋山渓谷での事件以来…我々崇高な使命を持った教会の意志を蔑ろにし、神の奇跡を起こすはずだったその機会を奪った者など…異端者と言わずしてなんなのか。


二十年以上前の、教会でのあの記憶が頭を過る―


―ドミニク―お前には聖職者としての資質は無い―


ローマでの、バチカンでの、吐き付けられたその言葉が重く伸し掛かる―


…ふざけるな―


だからこそ、


無いからこそ、


その力を行使出来る組織をこうやって作り上げたのだ―


無能と呼ばれた自分が。


その神の権威を、


神の権威を有した自分を、


否定する輩など、許しておける訳などは無いのだ。


その為には、独断と言われようと、


独善と言われようと、


行使する必要があるのだから。


それは神の意志であり神罰の代行者でもある、自分の責務なのだ。


眼前のモニターには、オーダー出来る術士がリストアップされている。


ドミニク「"青い符術師"と"金鈴の巫女"は?」


副長「現在、依頼を受領中です 各々4月以降都内各地を転々としています その上、上野での怪異が増えていますし…それにも対応しきれていませんが」


最後の一言は小声だった。


ドミニク「…ならば、彼女を仕掛けましょう 手配を」


思いついたといったその笑顔は歪んでいた。


副長「! しかし! 彼女では…! 最悪命を…!」


発言に驚き、ドミニクに眼を遣る。


ドミニク「いえ、捕らえるには彼女の糸が最適です」


そう言って、モニターの画面に、一人の女性が映し出される。


黒髪で地味には視えるが端整な顔立ちの若い女性―ただ、花が無い。


幸が薄そうな印象だった。

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