中編 其の二十一

二十一



―4月27日(火)夜0時31分―


―あきる野市 秋川渓谷 嘉手名別邸地下一階 隠しダイニング―



松田リカ「アナタは…?」


突然の事に多少驚きの表情をみせる。


黒い男「…お前の様な罪人を処刑するモンだ…!」


その男は黒尽くめの格好でロングのコートを羽織り、右手に刀を抜き身で持ち、キッチンの方から現れた。


特徴的なのは、両の眼が真紅に染まっていた事―


あからさまな敵意を向けてこちらに向かってきている。


その敵意に、松田リカ同じく"ゆっくりと自分に迫ってくる黒尽くめの男"に敵意を向けた。


すると、ザッと蠅達が塊となって黒い男に襲いかかる。


その途端、いつの間にか左手に所持していた銃で迫り来る蠅に連射し始める。


蠅達に弾が当たると、光と共に爆散したうえに、中から弾が四散し、周囲の蠅達も同様に爆散する。


薄暗い部屋にマズルフラッシュの輝きと、薬莢の転がる無機質な金属音が響く。


そしてその弾丸の波状攻撃を抜けた蠅達に、"輝く右手"に握られている刀を、右上に薙ぎ払う様に振るう。


そして振り上げきると、今度は逆手に持った返す刀で思い切り振り降ろす。


すると、迫ってくる大量の蠅達が、衝撃と共にバラバラに飛び散る。


松田リカ「!…なんてチカラ…! 人間じゃないの…?!」


驚きの声を上げる。


黒い男「化物従えるオバハンに言われたかねーな…!」


口角を上げながらそう述べる。


松田リカ「! …とても無礼な男ね」


その言葉に眉を顰(しか)める。


黒い男「命奪ってるヤツに言われる程じゃねーよ…」


松田リカ「…!」


敵意を出した視線を向ける。


松田リカ「…何処まで見たの…?」


黒い男「…来た場所から解るだろ…!」


語気に怒りが混じっていた。


松田リカ「…私には必要な事なの…!」


懇願する様なその言葉。


黒い男「!…必要…? だと…?!」


その身勝手な言い様に、怒りと共に敵意を露わにする。


黒い男「あの行為の何処に必要性が在る…!」


松田リカ「あの子達でないとダメなのよ!」


その必死な訴えに、クリフが反応する。


クリフ「あの子…? 達…? ! 誰なんです?!」


自分の同級生(佐久間美穂)が脳裏をチラつき、思わず松田リカに聞く。


黒い男「! 止せッ」


一瞬、焦りと共にクリフへと気が逸れる。


松田リカ「! ドナヒュー君! アナタにも関わってるのよ!」


その隙を見逃さず、そう言ってクリフに振り向く。


黒い男「! 止めろ!馬鹿やッ…!」


そこまで言って、その隙に大量の蠅達に覆われたかと思うと、集合した蠅達に掴まれ、思い切り台所方向とは真反対の壁に叩き付けられた。


黒い男「ぐぉッ!!」


クリフ「あッ…!」


その叩き付けられる様を見て思わず声を上げてしまう。


松田リカ「ドナヒュー君…知りたいでしょう…?」


背後から現れる蠅達で黒い男を壁に押さえ付けながら問う。


黒い男「止せッ…! このッ…クソ女ッ…!」


捕らえられながらも罵声を浴びせるも、再び壁に思い切り叩き付けられる。


黒い男「がッ…!」


松田リカ「黙りなさい… 彼の問題よ…!」


クリフ「僕…? 僕は…知りたい…」


この状況…理事長が何をしているか―


彼女…佐久間美穂が何処に居るのか―


クリフ「知りたいです…!」


頭の中は、それでいっぱいだった。


他は吹き飛んでしまうくらいに―


だから、素直に答えてしまう。


松田リカ「―そう…! 矢っ張りアナタは私の思った通りの人…!」


その反応を見た松田リカは、今までに無い嬉々とした表情を見せた。


松田リカ「行きましょう」


そう言って、二人はキッチンへ向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る