中編 其の十七

十七



―4月27日(火)夜0時4分―


―あきる野市 秋川渓谷 嘉手名別邸二階―



階段を上ると、その綺麗だが浮世離れした無機質で人間味を感じられない二階に、寒気を覚える。


黒い男「…なんだ? この部屋…?」


小声で呟くと、テレビのある方角の部屋からクリフが現れる。


クリフ「アレ? どうされたんですか? あ、二階には隠されているものは無さそうです」


小声でそういうクリフの左掌の上には、先程と同じ様に小さな魔法円と、その中に居る"獅子の顔をした紳士"の姿があった。


黒い男「…そうか …その手のは…また召喚術か?」


指で差しながら聞く。


クリフ「あぁ…! ええ、そうです 彼は探し物が得意な"プルソン"です」


そう言いながら左手の上の獅子紳士(プルソン)は消えた。


黒い男「…スゲェな…」


クリフ「…は?!」


そんな驚嘆の言葉をもらえると思ってなかったクリフは逆に驚いてしまう。


クリフ「なん…?」


黒い男「それよりもだ」


驚いているクリフを無視して続ける。


黒い男「二階に何も無いってのはマジか?」


クリフ「あ、え…? ええ…少なくとも二階には」


黒い男「…そうか、なら下に行くぞ」


クリフ「え ちょっ…」


慌てるクリフを気にせず一階への階段を降りる。



―4月27日(火)夜0時8分―


―あきる野市 秋川渓谷 嘉手名別邸一階―



黒い男「地下も調べたが、在るのはワインセラーだけだった」


階段を降り、そう言いながらサイドバッグを漁ると、和紙で出来た人形(ひとかた)を取り出す。


黒い男「バン・ウン・タラク・キリク・アク(五大を司る者よ) 鬼神将来」


口元に寄せた人形にそう唱え、放る様に水平に投げる。


すると、人形(ひとかた)が皺くちゃに潰れたかと思うと、内側からみるみる輝く鴉へと変わった。


一つ普通の鴉と違うのは、足が三本生えていたことだった。


クリフ「ぅわ…! スゴイ…! コレが日本の陰陽道(おんみようどう)…! 喚起の術なんですね…! 僕も学びたい…!」


素直に感心し、驚嘆の声を上げる。


黒い男「…正しくはない 喚起…という意味ならコレは式札(しきふだ)だ コレ(人形)を触媒として必要な鬼神に変化する」


クリフ「へぇ…陰陽道も色々あるんですね…」


素直に感心している。


黒い男「それはいい… コイツ(鴉)は"八咫烏"だ…コイツを連れて地下を調べろ」


クリフ「え…? さっき調べたんじゃ…?」


黒い男「コイツは目標に導いてくれる…お前には必要だろ」


クリフ「! それは…まあ」


そう言っている間に、八咫烏は地下ワインセラーのドア近くの壁に降りていき、鳴きながら壁を突(つつ)いている。


黒い男「…早速見つけたか…」


そう言って八咫烏に近付く。


クリフ「?え??」


訳も解らずクリフも近付く。


黒い男「ここか…」


八咫烏の突く壁を手探りで弄り始める。


八咫烏が一層太陽の様に輝き、その光が壁のスイッチを照らす。


黒い男「これだな…」


そのスイッチは腰ぐらいの高さで壁に偽装してあり、パッと見では解らず、壁の切れ込みと一体化しており、しかもタッチセンサーとなっているため、直ぐには気付けず、しかも扉を開けると隠れてしまうという代物だった。


センサーにタッチすると、ユックリと静かに壁が奥に入り込んでから横にスライドし、扉が開く。


中から溢れ出す光は、暗闇に居た眼には眩しかった。


それは、大きめのエレベーターの様だった。


クリフ「なんで…? こんな…? 料理研究家がエレベーターを隠す…??」


クリフには全く理解出来ず、頭の上で??となり首を傾げる。


その様(リアクシヨン)に、コイツは映画とか漫画とか…ホラーを視ないのか?と、心の中で呆れた。


クリフ「それに…なんで? 気付いたんですか? 隠し部屋? が在るって…」


黒い男「もらった資料を確認したら、この規模に予算が合ってない…」


この別邸を上部で指を差す様にくるくる回しながら述べる。


黒い男「…オレはこのエレベーターから下へ行く お前はソイツ(八咫烏)を連れて地下から行け 絶対に入り口は在る筈だ」


そう言いながらエレベータに乗り込み、B1をタッチする。


クリフ「え…なんで…?」


黒い男「食事に必要なワインを取りに行けないでどうする」


言いながらエレベーターは閉まった。


クリフ「ああ…! そうか」


納得すると、クリフは再び左掌に悪魔を召喚し、八咫烏と共に、地下への階段を降り始めた。



―4月27日(火)夜0時14分―


―あきる野市 秋川渓谷 嘉手名別邸隠しエレベーター―



黒い男「…」


違和感というより疑問は大きくなった。


不自然な大きさのエレベーターは奥行きが在り、横にも長い。


まるで搬入のエレベーター。


病院の。


しかし、地下一階に着いてドアが開けた途端、何が起こるかは判らない。


多少の緊張をしながらも、スイッチの在る右の壁へ寄る。


ほんの数秒そんな事を考えている間に、そのエレベーターは無音で地下へと辿り着いた。

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