中編 其の六



―4月15日(木)―午前8時―


―あきる野市 都立あきる野第二高等学校三宅分校 職員室―



そこには、スーツ姿のトシと、白衣を羽織ったスズの姿があった。


トシ「着任が遅れました、藤井歳ふじいトシです」


スズ「同じく、スクールカウンセラーの得水玲佳えみずレイカです」


深々とお辞儀をしながら、学校に似合わない言葉を使い、そう述べる。


トシ『なぜ―…』


スズ『こんなことに…?』


そう心の中で二人はぼやく。



―4月14日(水)―


―都内某所 プルス・アウルトラ本部―



薄暗い円卓に資料が散乱している。


ドミニク「全く…どういう事ですか…? 情報が遅い…! これでは、完全に後れを取っています…! どうするつもりですか? アナタ達は…? これでは裏切り者の"黒い男"を捕らえるなんて出来ませんし、我々の仕事を全て黒い男(ヤツ)に取られてしまいますよ!」


机を叩きながら、ドミニクは声を荒げた。


それと同時に、部屋の電子ロックが解除され、扉が開き、二名の男女が入ってくる。


ドミニク「…待っていましたよ アナタ達…今度こそは、彼を、逃がさないで下さいね?」


その言葉には、確実な嫌味が籠もっていた。


トシ「…はい」


スズ「…」


その嫌味に眼も合わせず、黙る。


ドミニク「…おや、おや…! 先月の事件…約三ヶ月ぶりに黒い男が現れたというのに…取り逃したのですから…! 今回はどんな手を使ってでも!捕まえて下さいね…?」


その無言が気に食わず、更に嫌味を連ねる。


スズ「…解ってます」


ドミニク「おやァ…? 声が小さァい! …聞こえませんねェェェ…!」


スズの顔元に近付き、舐(ねぶ)る様に嫌味を吐(つ)く。


スズ「ッ…」


職員「局長! 黒い男の情報、来ました!」


ドミニク「…モニターに映しなさい」


スズから視線を外さずに述べる。


映された映像にゆっくりと視線を移す。


ドミニク「!これは…」


画像に映されたそれは、黒い男が校内で黒い塊と戦っている画像と、黒い塊の検査報告書の、一部だった。


ドミニク「…やりましたよ…! 遂に"ランの奇跡"を上回る奇跡と権威…! そして、当時の威厳を取り戻すチャンスが…!」


トシ「は…?」


スズ「なにを…?」


二人には何の事か解らなかった。


ドミニク「二人とも! アナタ達には、明日からこの学校に赴任してもらいます!」


二人『は?!』


ドミニク「手続きはしておきます! …しっかり! 神の使いとして、己の務めを果たすのですよ…!」



―4月15日(木)―午前8時―


―あきる野市 都立あきる野第二高等学校三宅分校 職員室―



トシ『―ってコレか…』


スズ『トシは良いじゃない…私なんかした事もない心理士なんて…』


二人とも小声で愚痴る。


それが、二人の赴任初日目だった。

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