中編 其の一



―4月12日(月) 朝―


―あきる野市 都立あきる野第二高等学校三宅分校 体育館―



その日は緊急の全校集会から始まった。


三宅島の噴火以来避難先の高校も必要だと、理事長の出資と手腕によって、噴火で親を亡くした学生達の為にと、一時的ではあるが、全寮制の高校が興された。


親を亡くした子達の自立を促す職業訓練も兼ねて。


なので、この学校では様々な資格を取る事も可能で在り、取分け理事長が料理研究を行っているので、調理に関しては優秀な人材を輩出していた。


少なくとも噴火が収まる五~十年以内という限定、三宅島避難民児童達の自立の為として。


そんな特殊な学校に、4月も中旬になるというのに、新しい職員と転校生が来るというので、急遽全校集会が開かれていた。


職員達の会話を聞く限り、類を見ない慈善行動だと、理事長に直で国外から連絡が来たというらしく、交換留学生として海外からの転校生が来るのだそうだ。


臨時学校とはいえ、海外からの転校生と聞いて、学生達は浮かれていた。


校長がそういった言葉を述べた後、体育館のステージ上に、金髪の男の子が、下手から現れた。


そして、一本立ててあるマイクに向かって白人らしからぬ一礼をして、口を開く。


クリフ「初めまして皆さん。ウェールズから来ました、ヘイデン・クリストファー・ドナヒューと言います 日本語の勉強はしていましたが、来るのは初めてです よろしくお願いします」


女学生達が、思ったよりも童顔であるクリフを見て、ザワつき始める。


カワイイだの、アイドルみたいだの、将来が楽しみだのが殆どだった。


そんな中、佐久間美穂(さくまみお)はその少年の容姿より、どんな人なのか話してみたいという好奇心が勝っていた。


彼女は三宅島の噴火で家族を亡くしており、親戚の居る八王子北西部に避難してきたが、親戚に迷惑は掛けられないと、この全寮制高校への入学を志願した。


元々料理は好きであったし、この学校の校風は合っている。


好奇心からの独創性も強く前向きで、それは料理にも現れていた。


彼女には物事を視る眼が在ったのだ。


そういった意味も含めて、彼女は他の同級生の女子達より、純粋だった。


そんな転校生の話題で流行る中、もう一人職員として用務員が一人追加で入るとの話題が出たが、その紹介には最早生徒達は興味が無く、クリストファーの話題でいっぱいだった。


当の本人は、


ぅわ~嘘言っちゃった~…! どうしよう…上手くやれるかな…?


と、内心では焦りまくっていた。


元々は今回、バチカンからの洗礼を受けたてのお抱え退魔師としてSからの伝手で東京での大罪封じを手伝うとの事だったが、よもや学生として転校するとは想像を超えていた。


そもそも先日、初めて日本政府の特務機関と名乗る組織の人物であるエージェントAとも会ったばかりで、しかも一緒に仕事をする人黒い男さんが自分を子供だと解った途端に妙に毛嫌いしてくるしで…いきなり大変な任務を任された…と内心で大きな溜息を吐いた。


それもそうだった。


十五歳で五カ国語以上喋れ、幼少の頃からウェールズで魔術の才を見出され、東欧で信仰を学んだ。


その上で数世代は続く魔術家系の師を仰ぎ、その知人であるSに見出され、漸く秘密裏にではあるが、バチカン退魔機関の退魔師として、先日十五歳という若さで襲名したというのに…今の自分は何だろうか?


学生服を着て、日本の高校に通っている。


勿論、その程度の学力なら十二の時に得ている。


…だが、その余りのギャップに、少し目眩がしていた。


どうしようか…任務をこなしながら、仲良く学校生活出来るかな…?


そう心の中で思うほどに、クリストファーという少年は真面目だった。

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