中編 序 2004年4月

―序―




―2004年4月初旬―


―骨董屋DPP地下―



その広大な地下室には様々な部屋が在った。


古今東西新旧問わず収められた武器庫や、同じく資料室、そして表の骨董品店としての、非常に怪しげな"呪物"か?と思われる怪しい品達の在庫と、休憩室と思しき部屋…


この広大な空間を整理、管理の為には休憩室は必要だ。


黒い男は、その休憩室に籠もり、道具の軽いメンテナンスを行っている。


何かがプリントされた白のTシャツに大きめのGパンに裸足と、非常にラフな格好で、中央に置いてあるテーブルに銃を置き、椅子に腰掛けながら軽く分解した銃の可動部分に油を差していた。


長方形の室内には中央に大きめのテーブルと椅子が四脚、簡素なキッチンと冷蔵庫とデスクトップPC、奥にはトイレと風呂が設置されている。


ここだけでも、食料を詰め込めば数日は過ごせる。


店主であるSは、数日前に欧州に向かうと言って店を出たきりである。


その間は好きに使えと言われた。


店を開こーが資料を漁ろーがトレーニングをしよーが何をしても良いと。


そう言われても資金稼ぎが今は必要では無い為、地下で研鑽が最近のすることになっていた。


外に出る時は仕事の時だけ。


それが日課になっていた。


今は先日の事件でも酷使し、Sに組み上げてもらった大事な銃である"陰"と"陽"のライトメンテナンスを行っている。


先々月の事件でも無茶な速度で乱射した為、整備は重要だ。


だが、不思議なことに余り細かいメンテナンスは不要だと言われた。


何故かとSに問うたが、


S『愛着を持て』


との一言しか帰ってこず、理解が出来なかった。


しかし、言われた通り、あれだけ撃ってもジャミング(弾詰まり)は疎か、威力の低下や破損も起きないのだ。


不思議に思うが、今は言われた事を守り、次に戻ってきた時に聞こうと意識を切り替えた。


そんな事を考えながら二丁の銃を弄っていると、携帯が鳴った。


スライド式携帯の小さなディスプレイには、エージェントAの名前が記されている。


一ヶ月ちょい振りの連絡に、"通話"ボタンを押し、続け様に"ハンズフリー"を押す。


黒い男「もしもし?」


作業をしながら携帯に話し掛ける。


エージェントA『私だ 先日の増上寺の件はご苦労だった 君のお陰で幸徳秋水の目論見が一つ潰えた 礼を言う』


電話口から聴こえるその声は、冷淡で冷たく聞こえるも、僅かに熱を帯びており、そこには感謝の念が聴き取れた。


黒い男「いや、いいンスよ オレが、やりたくてやってることですから…」


そう言いながら、油を差し終わった銃を組み立てる。


エージェントA『あの事件を政府で調べた結果、様々な事が解った』


黒い男「…なんですか?」


エージェントA『それは、あの大百足は幸徳秋水の反魂の法にて怨念のみを現代に復活させ、それを百足に移したらしいということ』


黒い男「成る程ね…だから百足…潜伏には丁度良い…」


エージェントA『そう…人に寄生させて操るなども可能だ…虫唾は走るがな そしてその人間を使って都内の気脈の脆そうな箇所を探し、見付け、潜伏させ、そこで事件を起こし、気脈を乱す…』


黒い男「だから国津罪(くにつつみ)を謳ってたンスね」


エージェントA『…そうだ 故に日本最古の罪を犯し、それによって大地を穢し、気脈を乱そうとしていた…ヤツの掲げる無政府主義を実現する為にな』


黒い男「無政府…? この時代に? 詳しい事は歴史の授業で解んないけど、それって現代じゃムリじゃないスか?」


エージェントA『ああ…だが、盲執や念にかられれば、人はどうなるか解らない…何百と視てきたよ…』


最後のその言葉は深みが在り過ぎた。


黒い男「?…何百? 丸で実際に見てきたみたいな言い方ですね?」


エージェントA『…まぁ…な ともかく、ヤツの狙いはこの日本という国の政府転覆だ つまりは混乱 その為にヤツは大罪を用い、東京の気脈を乱そうとしたのだろう だからこその蛮行、だからこその狂気』


黒い男「成る程…でも、前から気になってたんですけど、その男…百年前の人間ですよね…? 何故今? 人間じゃないんですかね? 化物の類?」


エージェントA『それは…接触してみないと解らんな 残されているのはヤツの言葉と、ヤツの理力が込められた咒符だけだからな』


黒い男「"陰陽師(いんようし)"ってのはホントなんですか?」


エージェントA『ああ…宮内庁の陰陽師(おんみようじ)によって解ったのだ 幸徳井(かでい)という家系のな それが社会主義に傾倒していった』


黒い男「へぇ…ヤバイッスね」


エージェントA『ああ…故に天皇を暗殺しようとした罪で処刑された』


黒い男「それじゃあ怨念一択ですかね」


エージェントA『可能性は一番高いが未だハッキリとしてはいない そもそも幸徳事件自体、その五十年後の調べで幸徳が関わっていないという調べが付いている』


黒い男「関わってない…? でもだとしたらその怨念の可能性が高いんじゃ?」


エージェントA『実際に関わっていたのは死刑にされた十二名のうち四名だけだったからな』


その言い方に、またも引っ掛かった。


黒い男「?…謎が多いですね …けど、やりますよ」


そう言って、組み上げた銃の動作を確認する様にスライドを引き、トリガーを引く。


エージェントA『そうか…ならば助かる 早速だが依頼だ』


そうでなければ電話などこの人から掛けてこないだろうと内心思いながら聞く。


黒い男「今度はどんな?」


エージェントA『ああ…今回は…』


その話を聞き終わった後、余りの事に、真顔で問うた。


黒い男「…はァ?!」

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