第七話



―10月30日(月)午後5時過ぎ―


―東京都、町田駅―



夕方の帰宅ラッシュが近付いているのか、駅はゴミゴミしている。


改札付近で一般人に紛れた警察が配置に着いた状態で、遠目から橙の女は電話を掛け始めた。


数回のコール音の後、


黒い男『おう、どした』


橙の女「今から始めます」


黒い男『お前…かなり危ないぞ GPSは切るなよ』


橙の女「解ってますよ 警察の人には常に追跡しろって言ってあるんで」


犯人はどんな能力が在るやも、どんなモノが憑いているやも解らないのだから。


橙の女「今は高尾ですか?」


黒い男『ん? ああ…捜査本部に居る』


橙の女「じゃ、行ってきます」


黒い男『オイ、無茶するなy』


最後を言う前に切った。


この日の為に入念に準備をした。


囮捜査の為に。


彼女の携帯を借りて、神奈川県警と協力し、犯人(ヤツ)を誘(おび)きだそうと。


自分が彼女の代わりになって誘い出すという計画を。


服装や格好も彼女に似せている。


違うのは、スカートの色がピンクでプリーツ、上着のグレーが少し明るくなったくらいか。


尾行に二人の捜査官も付いている。


これで犯人を捕まえる事が出来る。


漸くこの事件を終わらす事が出来るのだ。


もう三人以上の行方不明被害を無くせるのだと思うと、気は抜けない―


そうこう思惑している間にもう直ぐ時間だ。


緊張が高まる。


―しかし…


待ち合わせ時間目前になっても犯人は現れていない…


刑事達は張り込みを続けているが、自分はその違和感に気付いた。


あれだけ連絡を取り合っている相手と会うのに遅刻などするのだろうか?


必ず前もって来ている筈だ。


なのにいないだなんて…


違和感を感じ、彼女から借りた携帯でアカウントを確認しても、新しい投稿は無い。


どういう事か…


そう思っていた矢先、携帯に着信が入る。


確認すると、登録もされていない、見た事の無い番号だった。


気を張ったまま、通話をタップする。


橙の女「もしもし…」


出来るだけ彼女に寄せた喋り方で出る。


しょう?『大分前に着いてたんだけどさぁ…見付からないから違うのかなって電話しちゃったぁ…いまどこ口?』


橙の女「…小田急の南…」


必要最低限しか喋らず、且つ余り大きくない声で答える。


しょう?『え? 南?まいったなァ…今、中央口なんだぁ…こっちに来てもらえるかなぁ…?』


突然の場所変更で、焦りが生まれる。


これでは確保出来るか解らない。


橙の女「あ…わかった」


しょう?『そっかぁ…よかったァー…格好はねぇ…グレーのパーカーで、青のデニムを履いてるよォー…待ってるねぇ』


そう言って、電話を切られた。


致し方なく、自分はこの場に留まり、捜査官二人にその情報を送って中央口に向かわせる。


溜息を吐きながら、この場で確保出来なかった事に落胆しながらも、捜査官の確保の報を待つ。


??「ダメだよぉ…そんな暗い色でぇ…」


後ろから声が聞こえたと思って振り返ってみると、其処には、確保対象が平然と立っていた。


しょう?「一人? そうだよねぇ…向こう行っちゃったもん…ホントだぁ…しおりちゃんが言ってた通り…同じ格好だァ…」


嵌められた…!


その思考が全身を駆け巡り、緊張が身体を強張らせる。


しかもこんな街中で…目立ち過ぎて"力"も使えない…!


しょう?「しおりちゃんが昨日連絡くれてね…誘拐犯じゃないよね? って聞いてきたからさァ…違うよって安心させといたんだァ…で、オマケに捜査情報も教えて貰っちゃった…」


やられた…!


しかもあの女…! 何を捜査情報を流しているのか…!


矢張りあの手の陰キャ女は嫌いだ。


そう思った。

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