地 其の五 ―黙示―

―8月1日 午前6時前―


―三宅島 大久保漁港―



二人の男は、長袖Gパンという簡素な格好で、各々の道具を最小限で所持し、漁港に降り立った。


竜尾鬼「避難所は確保出来たそうです しかしここは―…」


黒い男「オレも来たことは無かったが―…コレは…」


空や大地が赤く染まり、火山ガスが噴出している。


島の上空にはよく解らない翼の生えた生物が飛び回っている。


どうやら人型だというのは理解出来た。


空からは灰の混じった赤い雨が降っている。


しかも島内の植物や地形がおかしい。


そして、強烈な硫黄臭が漂っていた。


異常だ―


直ぐ解る程だった。


竜尾鬼「それでは、現状集めた情報を整理します」


黒い男「解った 頼む」


そう言って、拡げた地図を覗き込む。


竜尾鬼「現状、我々がいるのが、北部の伊豆・神着(かみつき)地区、北東部の美茂井(みもい)・島下地区、Sさんが2時間前に向かったのが、西部の伊ヶ谷、南西の阿古地区」


黒い男「ああ…それは理解したよ」


竜尾鬼「他にも南部の立根(たつね)地区、坪田地区が在るのですが…その二つは高濃度地区で、隔離されてしまっています」


黒い男「え…? じゃあ、どうやって…?」


多少の焦りが出る。


もし、そこに彼女が居たらと思うと、気が気でない。


竜尾鬼「しかも悪い事に、その危険地域に教会が二つ現れています」


黒い男「な…?! どうすれば行ける?!」


竜尾鬼「ちょっ…! 待って! 落ち着いて! あなたが行って、それこそ中毒になったら本末転倒でしょう」


その今にも向かいそうな行動力に、流石に止めに入る。


それぐらいの気概が見て取れた。


―この人は何を考えているのか。普通の人が―


そして、それを止めている自分にも驚いた。


自分は黒い男(この人)の事で焦っている―


信頼しているから―


その感情に自分でも内心更に驚く。


竜尾鬼「ガスマスクは渡しますから…! 大丈夫ですよ…!」


黒い男「!… ッ …解った…でも、其処へはオレが向かう…!」


その制止を理解したのか、落ち着きを取り戻す。


なんて無茶な人だ…!


自分の無理とは違う、他人のための労力…


それは、今の自分も同じか…


自分は彼のために動いている。


それが、理由… 自分はおかしくなったのだろうか?


でも、嫌ではない。


人として同じ様に扱われ、頼られ、話をするのは、嬉しい。


それが、本来の、使命とは別の、自分なのだろうか…


だから、彼には死んでほしくない。


そう思う様になっていた自分が居た。


黒い男「教会のおおよその位置は?」


竜尾鬼「ついてます ここです」


そう言って、坂本家の部隊―と今は言うか―が先程竜尾鬼に伝えていた事を地図に赤い丸で書き込む。


それにしても坂本家は凄いのだと心の隅で思う。


協会とは別で動き、Sさんと同等の知識や道具、能力を持つなんて―余程強大なのだろうと想像した。


黒い男「エペソ、スミルナ、ペルガモ、ティアテラ、サルデス、フィラデルフィア、ラオデキヤ…」


そう呟く様に言いながら、地図に示した教会の名前で数を数えていく。


竜尾鬼「ヨハネの七つの教会…」


そう竜尾鬼が呟く。


黒い男が無言で頷くと、


黒い男「恐らくテアテラとペルガモのどちらか…」


竜尾鬼「無理はしないで下さい…」


黒い男「するよ…死なない範囲で まだ死にたくないんだ」


竜尾鬼「それは…そうですね」


少し寂しい感覚があった。


"死にたくない"…自分には薄い感情だった。


東京のためならば生命を賭ける…


それ以外に生きる理由…


黒い男「無事に帰ったら、祝いだよな これからおっきいこと成し遂げるんだし…一緒に騒ごーぜ、竜尾鬼」


竜尾鬼「…ハイ」


その言葉がとても嬉しかった。


何故だろう。


後のために喜びを分かち合う。


それを想像するだけでも、やる気が溢れる。


何故か、涙が流れそうだった。


わからない感覚。


でも、嫌ではない。


坂本竜尾鬼に初めて友人、仲間が出来た。

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