地 其の四 ―談合―

―8月1日―


―東京、伊豆諸島海上―



その汽船は竹芝から発し、一日―正式には六時間程経っていた。


竜尾鬼「現状の島の状態を鑑みるに、火山ガスやらを避けるために遠回りをしていますが、もうじき到着します」


黒い男「解った…」


そう答えながら、手持ちの道具を弄り始める。


船内の会議室で地図を拡げたその上に立ち、二人は話し合う。


この船は、協会ではなく、坂本家の指示によって出港している。


例によって協会に報告をしなければならないのだが、そんな時間は惜しかった。


今頃協会は自分のこの行為をどう思っているか…だが、そんな事はどうでも良かった。


彼女を救いに行くのが最優先事項だったから。


竜尾鬼「良いですか?」


そんな思考をしている自分の顔を覗き込む様に竜尾鬼が聞く。


黒い男「…あぁ 構わない 始めよう」


竜尾鬼「それではブリーフィングを始めます」


そう言っても、この場には自分を含め竜尾鬼との二人しか居なかった。


竜尾鬼「現状、三宅島は三年前の噴火以来、観測の人達以外は離島しているのが現状です 今年から島内に避難先と帰宅事業を再開しましたが、この件で進んでいません それに島内の有毒ガスも未だ高濃度です」


黒い男「…だろうな、でもそれだけじゃない」


竜尾鬼「そうです 先月から異常な状態が続いています …というより、"無い物"が"在る"んです」


黒い男「教会…」


竜尾鬼「ええ、そうです 三宅島には教会は2003年現在在りません "跡"は在りますが」


黒い男「…店で調べた」


そう静かに述べる。


竜尾鬼「他にも硫黄の噴出が増え、島内で見たことも無い生き物の目撃例が増えています そのせいで作業が進まず、残った島民も怯え、北部にある伊豆避難施設に退避しています」


黒い男「調べたとおりか…」


そう述べたあと、急遽携帯が鳴った。


竜尾鬼「この船には強力な基地局と同じ通信設備が在ります」


携帯が鳴った事に対する疑問が湧く前に、竜尾鬼が答える。


黒い男「…もしもし」


驚く間も無く通話ボタンを押し、ハンズフリーで答える。


S『私だ 今、三宅島の伊豆岬灯台にいる―状況はハッキリしている "異界化"だ』


黒い男「―ッ そうですか…」


S『これは、"ヨハネの黙示録"の再現だ』


黒い男「…何故、そんな南方で起きるんです? しかもヨハネって…」


そもそも中東で起きた予言がこんな極東で起きるなんて―理解が追い付かなかった。


S『何故、こんな極東で起きたかは解らない だが、"起きた理由"は解る』


黒い男「なんです?」


S『硫黄と教会、信仰心の欠如だ』


黒い男「え…?」


S『悪魔の顕現には硫黄は必要だ それと、2000年の噴火以来、この島は人口が減り、教会関連の人間も離れてしまった そこを、あの"バホメット"に細工されたのだろう』


黒い男「成る程…あの山羊頭…」


S『私はこれから先に西に在る役場臨時庁舎に残っているであろう人達を助ける お前は教会を潰していくんだ 例のモノは持ってきただろう? "大罪"にはそれを使うんだ』


黒い男「…了解」


S『坂本―君も居るな?』


竜尾鬼「はい」


S『二人で分担し、事に当たるんだ 君は島を右回りに進め』


竜尾鬼「え…! ですが、二人一緒の方が…」


―危険が少ない。


どれだけ"力"が強くとも、黒い男(彼)はまだ三ヶ月しか戦ったことがない…それを分担なんて…無茶だ。


S『その方が良いんだ』


竜尾鬼「…そうですか」


真意が測りきれず、承諾してしまった。


黒い男「大丈夫だよ 竜尾鬼 オレのことはなんとかする コレも在るからな」


そう言って、銀色の弾丸を置く。


竜尾鬼「コレは…?」


流石に対策を持っているとは思わなかったので、その取り出された弾丸の事を聞く。


黒い男「アルテミスの弾丸 弾頭はニガヨモギを精製して作られてる 狙えば必ず当たる弾丸だ」


竜尾鬼「それだけで…でも…!」


流石にそれだけでは心配なのか、珍しく声を荒げる。


黒い男「それだけじゃない コレも在る」


そう言って、刀を地図の上に置く。


竜尾鬼「コレは…! "閻魔"ですが…扱えるのですか…?!」


当然の疑問だった。


黒い男「まだだ…でも…」


当然だった。自分にとっては只の"刀"なのだから。


でも…


黒い男「頼む…時間が惜しいんだよ お前を信じてない訳じゃ無い 別行動で行こう」


その眼差しに、その信頼に、気圧される。


竜尾鬼「…解りました その代わり、連絡は常に取りましょう」


黒い男「了解」


S『では、私は先に行く この異界―地獄の様な状態を止めねばな』


そう言って、電話は切れた。


竜尾鬼「…では、もうすぐ上陸です 無理矢理ですが、大久保漁港から上陸します」


黒い男「了解」


そう言って、ベレッタE2の装弾、装填を確認し、腰部後ろのホルスターにしまう。


数枚の咒符とアルテミスの弾丸を腰のサイドバッグへ。


竜尾鬼「先ず、僕達坂本の者が上陸し、避難施設の安全を確保します 我々はその後です」


黒い男「了解」


そう言って、"閻魔"に手を伸ばし、背中に背負った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る