第十九話

四十六



―6月1日(金)夜0時28分―


―町田市 南 廃工場 裏 異界―



黒い男「雄一…!? 何やって…!」


怒りの含んだ声を上げつつ、雄一を見遣ると、その格好は大分薄汚れていた。


遠出の時はいつも背負っているザックを背負わず、土埃で服は汚れ、全身に血を浴びたのか、顔や服に赤黒い染みが付いている。


それを見て、更に怒りが増す。


黒い男「止めろ! 雄一!」


お前には向いていないんだ…!


実行するのは"力"の在るオレ達だけで良い…!


お前はフツーなんだから…!


無茶をするな…!


本心だった。


雄一「いえ…! 出来ますよ…! おれだって…!」


そう言って、止める事無く続ける。


黒い男「馬鹿野郎! そんな事…!」


白の男「いいじゃねーか、効く道具モノを持ってきたんだろ? それを使えばいい そろそろ止めさせりゃ良い」


黒い男「ッ…!」


その無神経さに一瞬腹が立つ。


何言ってんだ!


アイツは解ってないのに…!


その怒りを抱えたまま雄一に警告を続ける。


黒い男「止めろ!雄一!そのままじゃ…!」


反撃を喰らうぞ…!


雄一「大丈夫です! おれだって役に立ちます…!」


そうじゃない!


そうこう言っている内に触手の一つが雄一を叩き飛ばす。


雄一「ぅあっ!」


白の男「お、助けに行けよ」


言われる前に、左手の"陰"のマガジンを切り替えつつ、動いていた。


黒い男「! 雄一!」


そう言いつつサイドバッグから黒い小さな塊をマーラに投げつける。


雄一「ぁうっ…!」


地面に叩き付けられ、数メートル転がりながら倒れ込む。


一緒に抜けたのか、降魔杵もカラカラと横に転がってくる。


黒い男「オイ!雄一!」


側に寄ると同時に雄一が此方を見る。


と、同時に、その黒い小さな塊を左手の"陰"で数発撃つ。


そして、黒い塊に跳弾し、火花が出た瞬間、その塊が大爆発を起こした。


雄一「!?うっ…あ…?!」


突然の事に耳を覆いながら撃った方向を見る。


マーラ『ヲヲヲヲォォォォォ…!?』


突然の出来事に訳が分からずマーラが身悶えている。


よく視ると、その数個着いた黒い塊には青い物体が張り付いており、その青い物体は、マーラの近くにある白い煙を吹き出すボンベから垂れていたモノだった。


雄一「?!…なんだ…?! アレ…!?」


その青い物体は液状で、黒い塊に吸い寄せられる様に向かっていた。


更に黒い男が青い物体が張り付いた残りの黒い塊に対し、"陰"の弾を数回撃ち込む。


そして、同じ様に黒い塊を弾いて火花が出ると同時に、大爆発を起こした。


雄一「うっ…! わ…!


黒い男「即席のLOX液体酸素爆薬モドキだよ」


そう言いつつ"陰"を腰裏にしまう。


雄一「エルオーエックス…?」


聞き覚えのない言葉を聞き、何の関係が在るのかと、その盛大な爆発を見詰めながら、その単語を口にした。


雄一「あ! コレ…降魔杵です…今回の役に立つかと思って…! 魔を降す…マーラを降すのに必要って…」


忘れていた事を思い出し、思考を元に戻して、必死に持ってきた降魔杵を拾い、渡す。


ようやく渡せた…役に立てた…


そう、遣り遂げた充足感を得る―


筈が、


黒い男「馬鹿野郎! それだったらコレを渡すだけにしとけ! 何お前が闘ってんだ! 死んだらどーすんだよ!」


返ってきたのは叱責だった。


黒い男「立ち位置考えろ! 大馬鹿野郎!!」


そう言われ、失意が自分を襲う。


雄一「あ…済みません…」


その失意は伝わったが、それを許容すればまたこんな危険な事をする…許容は出来なかった。


…だが、この選択やり方は、後に失敗だと実感する。


黒い男「そんだけやったんだから、休んどけ 後はオレがやる」


雄一「わかりました…頑張って下さい…!」


黒い男「休んでて良い…! 待ってろ…!」


そう言って、降魔杵を握り締める。




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