―第二話―



―2015年12月31日(木) 午後11時過ぎ―


―泰叡山護國院 瀧泉寺―目黒不動尊―


新年に向けてのカウントダウンが始まり、初詣の賑わいを見せ始めた目黒不動。

人がごった返した中に、多群雄一は、

何故か其処に気がして。

此処に来ねば成らぬ気がして。

あれから一晩過ぎて、特に何か起きた事も無かった。

普通に起きて、食事を取り、TVを観る。

特に何事も無い。

何時もの日常。

昨日はあんな普通じゃない事に巻き込まれたのに。

なんだか実感が無い。

だが、特に何かやる事も無い。

何時もの日常に戻った。

昨日はとても重要な事を言われた。

でも、何事も無く、過ぎた。

こういうものか

と思う。

結局、何事も変わっていなかった。

自分の中でも。

結局自分が何も出来なくても、代わりに周りがこなす。

結局、自分の役割など、そんなものだ。

そうして、新年を迎えようとしていた。

新しい事など何も無い。

だが、

何故か、目黒不動に行こうと思った。

毎年初詣に目黒不動には行っていた。

だが、今年は何故か行かねば成らない気がした。

今、詣でる気は一切無い。

だが、

そう感じたから、動いていた。

頭で考えたのではない。

その行動を不思議と思いながらも、心に戸惑いは無かった。

時計を視たら、もう十一時半を回っていた。

除夜の鐘が鳴り始め、新年を迎える行事は、佳境を迎えていた。

そうだ、独鈷どっこの滝に向かおうか。

あれだけの事もあったから、行こうと考えるのは変じゃない。

そう思い、独鈷の滝に向かった。



―午後11時45分―


―独鈷の滝―


特に変化は無い。

当然だ。

まるで昨日の事が夢の様に。

当たり前だ。

あんな事は、起こる事じゃない。

自分は、何も出来ない。

普通なのだから。

あの時も何も出来ないのが自分なのだ。

一緒に何か出来たら―

―そうかすかに思っていた。

だが、あの時のテンションだ。

吊り橋効果ってヤツ。

あんな非日常、自分には向いていない。

あんな事は選べない。

そう思い、独鈷の滝を覗き込んだ時、突然池の中から手が出てきて、

立っていた自分の手をつかみ、引きり込んだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る