三バカ、集結
昼休みは中庭のベンチで過ごすことになった。
舞の目の前の花壇には円形に色とりどりのチューリップやパンジーが植えられ、その真ん中の空いた場所にはどっかりと桜の木が植わっている。時々白い花びらがこちらに流れてきて、ふわっと膝の上に舞い降りる。
舞がその花びらをそっと手でつまむのを見ながら、祐司は説明を始める。
「そもそも、俺達三人、俺と美咲、春貴はガキの頃からの幼馴染でさ。家も近くてよく遊んでたんだ」
春貴がニヤリと笑って言う。
「あの頃はバカやりまくったな。祐司がリーダー、俺が参謀? まあ二人で怒られるようなことばっかやって、美咲は……なんだろうな、ドジで泣き虫な姉貴」
美咲がいつも自分で作っているという弁当を膝の上に乗せながら、憮然として、
「ドジも泣き虫も余計でしょ」
と言った。
舞は笑いながら弁当を開ける。姉の作った弁当には、いつも通りタコのウインナーが入っていた。子供じゃないんだから、と思いながら頭の方の皮をパリッと破ると、ジューシーな味が染み出すいつも通りの美味しさだ。
「まあ春貴がアイドルデビューしたり、俺が野球始めたりしたりしてからは徐々に顔を合わすことも減っていったけど。それでもまあ相変わらずこんな感じって訳」
「あの、じゃあ仲村さんは、昔からずっとあんな感じで二人を心配して泣いたり?」
「残念ながらそう。このバカ二人に振り回されっぱなし」
「何言ってんだよ、こんな俺達に付き合うお前もよっぽどバカだ」
祐司の反論に、美咲は「なによ」と一瞬身を乗り出し、弁当箱が落ちそうになる。慌てて手で押さえた彼女は、そっと座り直して、諦めたように首を振った。
「はあ、そればっかりは確かに否定できないかも。結局は昔から変わらず三バカなのか」
勝ち誇った表情の祐司を横目に、春貴がめんどくさそうに話を戻す。
「とにかく、今朝みたいなことは昔からよくあってな。小学校、中学校と同じ学校だった奴らが多いからか、そういう噂も回るだろうし、今朝のクラスを見る限りいつの間にか周知の事実って感じになってたみたいだけどな」
あ、周りの目線に気付いていたんだ、と舞は驚いた。
今朝の春貴は、一見美咲への対応で手がいっぱいのように見えたが、結構冷静で頭も回るのかもしれない。
再び桜の花びらが温かな風に運ばれ、舞の足下にゆったりと着地する。
他の三人は賑やかに会話を続けている。実は三人はこの二年間クラスが揃ったことがなかったので、こうして一緒にご飯を食べるのも久々のことらしい。だけど、とてもそうには見えない。
「いいな、こういう関係」
知らず、そんな呟きを漏らしていた。
三人は不思議そうにお互いの顔を見合わせ、クスッと笑う。
「そっか、傍から見たら結構いいもんなのかな。俺達は自然すぎてもう何も」と祐司が言うと、
「一緒にいるとしょっちゅう口喧嘩してるしな。気が置けないのは確かだけど」と春貴が頷く。
美咲が弁当箱を閉じて、優しく尋ねてくる。
「三鷹さんはこういう感じの友達っていなかった?」
「前に住んでいた所には仲の良い子は何人かいたんですけど。引っ越したのもあって、会う機会もなくなりまして」
祐司はふうん、と鼻を鳴らした。
「そう言えばさ、前に住んでた所とかさ、学校とかってどんな感じだったの?」
何気ない質問だったのだろう。なのに、舞は過剰に反応してしまう。
前の学校。今朝の夢。
あの日の空気の冷たさが背筋を伝う悪寒に変わって、鳥肌が立ち、手が小さく震える。
「前は、その、西の方に。……高校は、ちょっと。ごめんなさい」
震えるあまりお弁当を落としたりしなかっただけマシだが、最後の方は風に消えそうなか細い声になっていた。
四人の間を重たい空気が流れ、舞は自分を責める気持ちになる。
美咲がそれを振り払うように、口を開く。
「あはは、なんかごめんね。言いたくないことは言わなくていいよ。全くこのバカったらほんといつもデリカシーないんだから」
彼女は祐司の頭を手で押さえつける。祐司はその手を掴んで、
「痛えよ、何すんだ」
と言い、二人は睨み合う。え、ケンカなんて、と舞がおろおろしていると、春貴が苦笑しながら話しかけてくる。
「これがあいつらなりの誤魔化し方なんだ。不器用なだけだから気にしなくていいよ」
あ、はい、と気の抜けた返事をしていると、予鈴が鳴り響いた。次は体育で着替えが必要だ。
美咲は祐司の手を払いのけ、急げーと叫びながら走り出し、祐司も慌てて追いかけていく。ほんとにあいつらはなあ、と笑う春貴と共に、舞はその後を追っていった。
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