第19話 ジョブ:女垂らし
「それで、どうだった? 昼休みにスポーツ系美少女とイチャイチャした感想は」
「バスケ部エースにボコボコにされた俺を見てそれ言うか?」
「うるさいよ女垂らし条くん」
異質な呼び名が住宅街を木霊する。
夕焼けに背中を押されるように、俺と高砂は帰路に着いた。
「だいたい、一条くんってバスケ出来るの?」
「出来るように見えるか?」
「全然」
「ならお前の想像通りだ」
「体育の授業をサボる事しか考えていない一条くんがバスケ上手い想像が出来ない」
「バスケットボールなんて授業の時くらいしか触らねぇからな」
「もっとアクティブに生活したら?」
「ほっとけ」
アクティブに生活出来る陽キャラなら、こんなポジションを保持していない。
漫画や小説を読み漁り、アニメ鑑賞をして、オンラインゲームに興じる。
休みの日に外出する時間など無い。
「でも、なんで一条くんを誘ったのかな?」
「それが分からないから困っている」
「西島さんの心理を読み切れないの?」
「他人の考えている事なんて分かる訳無いだろ」
「えぇ?」
「なんだよ」
「授業でのグループ活動、昼休みの人気の無い場所への移動、体育の時間の立ち回り。どれも人目に触れないように行動する事で成し遂げられる事だよね? 分かるんじゃないの、人の考えている事が」
「それは過大評価だ。俺は元から影が薄いし、
他人の考えなど理解出来る訳が無い。
それは相手がボッチでも、陰キャラでも、陽キャラでも、リア充でも同じだ。
心理を読み切れる。
なんて傲慢な思考だ。
「いじられキャラの位置すら回避したよね」
「いじれる要素が無かったんだろ」
「んー、アホ毛とかどう?」
「本人に聞くのかよ。てかアホ毛は俺の妹にも生えているが、いじられていないぞ」
「妹さん? 一条くん、妹さんいるの?」
「いるぞ。最近まで目も合わせなったが、この前八時くらいに帰った時に話した」
「それって部活見学した日?」
「その日」
あの日以来、一条兄妹は再び冷戦状態に入った。
目を合わせても逸らされ、挨拶しても帰って来ない。
しかし夕食だけは一緒に食べる。
よく分からない関係だ。
「妹さん、心配してたでしょ?」
「なんでそう思う」
「だって友達いない一条くんが八時過ぎに帰って来たんだよ? 事故に遭ったか不良にでも絡まれてるって思うじゃん」
「お前らはやっぱり俺をそういう目で見てたのか」
溜息が漏れる。
帰宅部の男子高校生が八時過ぎに帰ったくらいで不幸事に巻き込まれる事を想定。
寄り道してるかぁ、くらい普通思うだろ。
これが一条クオリティなのかもしれない。
「そういえば進み続ける異世界の原点、新刊は入っているか?」
「まだ入ってないよー」
「今回遅くねぇか?」
「お父さんしか知らないからね、仕入先」
「よくあんなマイナーな本を仕入れようと思うよな」
「私に言わせれば、よくそんなマイナーな本を買うよね」
「好きなキャラがいるからな」
「好きなキャラ? あの本の中に?」
「お前は読んで無いから分からないかもしれないが、あの中には俺と同じアホ毛を持つ奴がいてだな」
「
「……お前も読んでるのか?」
「お得意様の趣向を知らずして看板娘が務まるとでも?」
「俺以外に読んでる奴がいるのにもびっくりだが、まさかそれがお前だとは」
「え? 他にも買っていく人いるよ?」
「は?」
「十六、七人くらいはいつも買っていくよ?」
「まじかよ」
己以外にあんなマイナー本を買う者がいるとは。
同い年くらいならぜひ語り合ってみたい。
「中には小学生くらいのお人形さんみたいな女の子もいたかな。今年に入ってからは来なくなっちゃったけど」
「へぇ」
「一人称が”ボク”だから、凄い印象的だった」
「リアル”ボクっ子系少女”か。そのまま成長して欲しいものだ」
「きもいよ一条くん」
「呪いの四文字を吐くんじゃない。”きもいよ”をもっとオブラートに包んでくれ」
「人外だね一条くん」
「それでオブラートに包んでるつもりなら、お前のコミュニケーション能力に疑念が生じるぞ」
一条は頭を抱えながら、ニシシっと笑う高砂を見送る。
一緒に登下校を初めて早二ヶ月。
相変わらず彼女のペースに乗せられてばかりの彼は、明日の筋肉痛に怯えながら再び歩みを進めた。
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