第17話 ジョブ:黒子
体育館内を響き渡る笛の音。
試合が始まった。
「そっち行ったぞー!」
仲良しチーム、妥協チーム、寄せ集めチーム。
勿論俺は寄せ集めチームの一員。
「止めろー!」
止めろ、そんな言葉で戦場の王様からボールを奪えるなら苦労しない。
練習時間が終わってから約十分が経過。
試合は一人のプレイヤーによって支配されていた。
「はぁはぁ……やっぱりえげつねぇな、西島の奴」
「女子にしてあの身長、一年で女子バスケ部のスタメンだろ?」
ゲーム自体は八対八のイレギュラー制。
公式の試合では無い為、体育の授業特別ルールが
「一条君、時計を何度見たって授業は終わりませんよ?」
「外から状況把握してるだけです」
「もっとゲームに参加しませんか?」
「……分かりました、善処します」
参加人数はコート内に十人、試合が始まってから十分が経過した。
ボールを取りに行くような動きをしている者はその内四名。
残りは傍観者気取りで周りに流されているだけ。
「スイッチー!」
教師の目には俺が浮いたように見えるが、コート内での影は限りなく薄い。
ドリブルをした敵チームの生徒がまた一人、隣を素通りした。
手を伸ばせば届く距離で。
「はっ!」
試合観賞に費やした敵を警戒する用心深い奴はいない。
味方と敵の影に入る。
コート内にいるプレイヤーの認識から、一人消えた。
「もう一本!」
西島を三人のディフェンダーが囲む。
だが張りぼてのど素人。
見え見えのフェイクに一人、また一人が釣られた。
ゴール下を四人が埋める。
超個体には物量で勝負。
敵も入り乱れ、もはやレイアップとしての手段は消えた。
「ならっ!」
出来る限りゴールに近付き、ジャンプシュートへ作戦を移行。
西島にフリーで打たせると失点は確実。
先行部隊の三人が彼女の前で大きく飛び跳ねた。
「よっ!」
またしてもフェイク。
これで完全にフリー。
誰も彼女を止める事は出来ないし、今頃味方にパスという選択肢も無い。
つまり、彼女の身体能力と経験から生まれる数多の選択肢は一つに絞られた。
「――っ!」
敵が隣を素通りしても反応しない者をプレイヤーとして誰が認識するか。
影が動いたところで誰が気にするか。
西島の手から離れたボールに、ボッチの手が触れる事を誰が予測出来たのか。
「なっ!?」
ジャンプシュートによってプレイヤーの手から離れたボールに指先が触れる。
軌道が僅かにズレる。
今日の試合初めて、ボールはリングに弾かれた。
ブレブレの軌道を持つ
「そ、速攻ー!」
一条が触れたのはボールだけではない。
”面倒”という扉にまた、手を掛けたのだ。
いつだって出会いは突然。
呪うなら、自分自身を呪うしかない。
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