第9話 ジャンパースカートと境界線

 案の定、真昼さんはジェットコースターに乗ってもわーとかきゃーとか言うタイプではなかった。

 乗っている途中で写真を撮られるタイプのものだったのだけど、後で確認したら真昼さんの表情があまりにも無表情で笑ってしまったくらいだった。

「もう……みつはさん、あまり笑わないでほしいわ」

「ふふ、だって真昼さん、なんか悟りを開いたみたいな表情してるから」

「単純に怖くてそういう顔をしていただけよ」

 少し笑い過ぎてしまったので、彼女は拗ねたように口をむっと結んでいた。

 今日の真昼さんはクリーム色の長袖シャツに栗色のジャンパースカートという出で立ちだった。ファッションには疎い私だが、なんとなく秋を感じさせるような装いなのは感じ取れた。

 園内をぶらぶら歩いていると女性二人組という組み合わせは数多く見かけられて、中には私たちみたいに手を繋いで歩いている人たちもいた。友達同士で手を繋ぐのは、思ったほど特殊なことではないのだろうか。

 この前手を繋いだ時ほどはどきどきしなくなったけど、手のひらから伝わる体温は少しも変わらない安心感を与えてくれた。

 一方で、以前とは違うもやもやとした思いが心の中で燻り続けているのもまた確かだった。

 どこが自分にとっての「境界線」なのかを探るように。超えてはいけないラインを確かめるように。臆病さが胸の内を支配しているのが自分でも感じ取れた。

 頭の中のわだかまりを振り払うように、私は努めて明るく話題を変える。

「次はどこ行く? 真昼さんが良ければ、お化け屋敷行ってみたいな」

「お化け屋敷……私、実は本格的なものは入ったことないから、どれくらい怖いのかよく分からないの。興味はあるんだけど……」

「そうなんだ。大丈夫、二人で行けば怖さも和らぐよ」

「ええ、そうね。じゃあ行ってみましょう」

 二人手を繋いで、また園内を歩いて移動する。

 今日も真昼さんの歩く姿は凛としていて綺麗だった。それをこんなに間近で見られる幸せ。

 ヨーロッパにありそうな大きなお城を模した建物の横を通り過ぎ、まだもう少し歩く。

 残暑の季節もそろそろ終わりを告げ、石畳の上をお散歩してもそれほど汗ばまない気温になってきた。真昼さんと仲良くなってから、もうすぐ一つ分季節が進むことに気づく。

「……ここみたいね」

「そうだね。列並ぼっか」

「ええ」

 目的地に着くと、ハロウィンの仮装とかでよく見かけるような死神とか幽霊の飾り付けが最初に目についた。建物自体もいかにもドラマに出てきそうな洋館という感じで、上部に幾つかある三角屋根が特徴的だ。

 不気味と言えば不気味な建物だが、外から見る分にはまだまだ怖いという感じではない。まあ、中に入ってからが本番だろう。

「こういう感じの建物なのね」

「うん、ここは西洋風のお化け屋敷だね。私が前行ったのは、廃病棟みたいな建物だったけど……」

 並んでいる最中、そんな話をしながら時間を潰した。

 まだもうちょっと時間が掛かりそうだ。でも、真昼さんとお話できるのなら、待ち時間だってまったく苦痛にならなかった。

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