間章 自販機と親友と彼女

「ねえ、最近みつは、篠藤さんと仲良いよね」

 校舎1階に設置された自販機でジュースを買っていたら、たまたま居合わせた眞理にそんなことを聞かれた。篠藤というのは真昼さんの苗字だ。

「んー、そうだね、最近はよく話すよ」

 返事をしながら、私はなんとなく嫌な予感がしていた。

 眞理とは中一の時に一緒のクラスになって以来の友人で、話の切り出し方から彼女がどういう話をしようとしているのか分かってしまうものなのだ。

 まあ、目の前の眞理は見るからににやにやと何かをたくらんでいるような顔をしているから、誰が見たって分かりそうなものだけれど。

「みつはさあ、今週の月曜日髪切ってたよね」

「う、うん……」

「でさ、同じタイミングで篠藤さんも髪短くなってたんだよね」

「そうだったかな、うん」

 さすが眞理、自他ともに認める情報通だけあって周囲の変化によく気がついている。って、感心している場合じゃない。

「隠さなくてもいいじゃんかー。ほんとにたまたまだったんだけどさあ……見ちゃったんだよね。みつはと篠藤さんがその、手を繋いで……」

 ぎゃーっ! やっぱりっ!

「み……見られてたんだ、あれ……」

 あの頭お花畑状態だった私を眞理に見られていたなんて……恥ずかしすぎる。

「いや、でも、なんて言うか……二人ともいい顔してたよ。篠藤さんのことはあんまりよく知らないけど、少なくともみつはは、学校にいるときの百倍くらい楽しそうな顔してた。篠藤さんも、みつはといるときはあんな表情するんだって、ちょっとびっくりした」

 真昼さん、学校にいるときは相変わらずクールで無表情だからなあ。私は裏の顔を知ってるから、教室でそういう態度を見かけると思わずにやけちゃうんだけど。

「はあ……でも、見られてたかあ……」

「あ、大丈夫、みんなに言いふらしたりはしないから。その代わりさあ、馴れ初めの話とか色々聞かせてよ。ね、どっちから告白したの? ハグはした? キスは? それとももっと深い関係になってるのっ?」

「ストップストップっ」

 私はたまらず制止した。眞理は基本的に善良な女子高校生だが、噂話が好きで妄想癖がひどいのが玉に瑕だ。

「その……真昼さんとは仲良いけど、今は別にそんな関係じゃ……」

「そうなの? てっきり付き合ってるのかと思ったけど。二人、お似合いなんじゃないかなあ。付き合いたいっていう気もないの?」

「うう……それは……」

 答えづらいことを眞理はずばずばと聞いてくる。

 真昼さんが、彼女……。

 それはなんだか、あまり現実味のない想像で。

 考えるだけでも真昼さんに失礼なんじゃないか、って思っちゃう。

「うーん……分かんない……」

「そう? ま、確かに女子同士って少数派ではあるけどさ。あり得ない話じゃないとは思うよ。なんにせよ、自分の気持ちに正直になるのが一番じゃない?」

「うん……」

 分かってはいる。けど、自分の素直な気持ちを知るというのも案外難しい。

 真昼さんとこのままずっと友達……親友で居続けられれば、それで十分幸せな気がする。

 一緒に散歩したり、カフェに行ってみたり、水族館とか遊園地で遊んでみたり。

 親友同士だったら、手を繋ぐのだってそこまで変じゃないだろう。

 まだまだやってみたいことはいっぱいあるし、同じ場所にだって何度も行ってみたい。

 いくらでも素敵な関係を続けられそうだった。

 それでも私は、真昼さんとさらに一歩踏み込んだ関係を望んでいるのだろうか?

 そもそも、親友と彼女の違いってなんなんだろう?

 それは明確に区別しなきゃいけないものなんだろうか?

 ぐるぐると頭の中で幾つも疑問が浮かぶけど、少なくともこのジュースを飲み切る間には答えが出なさそうだった。

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