あるクソラノベ作家の最期
MrR
こうして私の人生はエンドマークを迎えた
私は嘗てはなろう系作家の最底辺と言われた。
もう酷く酷くて、中学生レベルだとか誤字脱字のオンパレードだとか。
それはプロデビューしてからも治る気配はなく底辺作家として悪い意味で有名になり、ラノベの内容もクソ小説呼ばわりされて漫画化されようがドラマCD化されようがアニメ化を何度か経験してもなおその肩書きは生涯付き纏った。
扱いがアルバトロ○とかアサイラ○とかのクソ映画みたいな扱いだ。
いっそ呪われてんじゃないのかと思った。
それでもどうにか頑張って小説を書き続けた。
もちろん働きながらだ。
年単位で小説を書けない時もあったが、それでも作品を産みだし続けた。
努力は報われると言う言葉は嘘っぱち、最後は運とか愚痴ったりもした。
日本の自然災害や政変で苦労したりもした。
親しい人間と死別したりもした。
親、兄弟。
親友。
そうして童貞のままついに自分は病床に伏せってしまった。
小説を書く道具を病院のベッドにも持ち込んでるのだ作家の意地だろう。
そんな私に――最後にある祈りが通じた。
綺麗な白い髪の毛、純白の肌、赤い瞳、華奢な体付きの男の娘。
ビジュアル系ロックバンドの女性ボーカルみたいな黒い露出度高めの衣装。
コスプレイヤーとかではない。
ただのコスプレイヤーは特撮物の黒い怪人への変身能力などない。
少年は私が一番よく知っている人物だった。
同時にこの少年の出現は平行世界の存在を実証したことになった。
それが世間に信じられるかどうかは置いておいて。
私は驚いた。
ショック死しそうだった。
自然と涙が出た。
彼は――私の話に好きなだけ付き合ってくれた。
目立ちそうな外観であまり周囲から目立っていないのは少年の能力によるものだろう。
少年は私が産みだしたメアリー・スーなのだから。
だが付き合うウチに不安になってある時、私はおそるおそるこう尋ねた。
私を殺したくないのかと?
私はこの少年の世界の創造主だ。
そしてこの少年を何度も何度も作中で酷い目に遭わせた。
それを考えれば間違いなく私を殺すだろう。
いや、楽に殺してくれないかもしれない。
そう設定したのは私だからだ。
だが少年は言った。
そして作者である私に確認するように自分の世界の事を尋ねた。
その質問は恐怖が吹き飛ぶ程に驚くべきことだった。
私が産みだした物語とは違う点や知らない事も多々あったのだから。
最後に少年はこう結論づけた。
私は貴方を恨んではない。
勿論、恨んでいる人間もいるかもしれない。
それでも私は恨んでいないと――
私は全ての肩の荷が下りたような気分だった。
同時に知った。
例え自分が産み出したキャラでも分からない事はあるのだと。
それから少年の伝手を使って色んなキャラクターと出会った。
私が産みだした世界のキャラ限定ではあるが。
だが楽しい時も何時かは終わる。
最後の日。
私は少年にこう尋ねた。
どうしてここまでしてくれるのかと。
少年は言った。
自分に嘘をつきたくなかった。
自分のやりたい事と貴方のやりたい事が偶然重なっただけだ。
と。
シンプルな言葉だ。
少年らしい言葉だと思った。
言葉に嘘偽りはないだろう。多少の照れ隠しも混じっているのだろうが。
多少の差異はあるが、彼はそう言うキャラなのだから。
それが別れの言葉だった。
私は黄泉の国へとたびだった。
時限装置付きの安楽死と言う奴だ。
あの少年ならこの程度の芸当はやってのける。
これを最後まで読んでくれた人へ。
私の人生は後悔だらけだった。
だが最後の最後に私の作品のキャラクターに出会えて、祝福されて最後は祝福だった。
病で頭が変になったと言われたらそれまでだろうが――
ここに至って現実か幻かなのかは些細なことだ。
重要なのは私は幸せだったと言うことだ。
もしも転生が出来るのなら、また物語を作りたい。
平行世界の自分の作品のキャラと出会えたんだ。
それぐらいの奇跡が起きてもおかしくはないだろう。
それでは――でした。
☆
この遺書の発表で騒動は更に激しくなった。
なにしろ彼が産み出したと思われる世界のキャラクターの目撃情報やキャラクターが起こしたと思われる事件などが大量に発生していたからだ。
その事件は悪事ではなく、世間的には全部人助けの類いだったが国境を跨いだ地球規模の慈善事業である。
一番最大規模は紛争地帯の争いを収めたりとか世界的犯罪組織の壊滅に大国の陰謀を暴いたことだろう。
創作物のキャラクターが起こしたとしか思えないこの大騒動とこの遺書の発表で電子世界ではお祭り騒ぎになり、亡くなった氏の作品が脚光を浴びることとなる。
真相は定かではないが、亡くなった氏の言葉を借りるのなら、嘘か真か分からないが確かに救われた人間は大勢いるということだろう。
あるクソラノベ作家の最期 MrR @mrr
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