第六十四話
イレーヌさん達とカオスな宴会を行った翌日。
イレーヌさん達は蟒蛇のように飲んだくせにしれっとした顔で早朝に森へと帰っていった。
あれだけ飲んだのにどうしてあんなに元気なのか意味が分からない。
特殊な肝臓でもしているのだろうかと思ってしまった。
更に凄いのはミソラだった。
ミソラはイレーヌ達の倍近い量を飲み食いしていたが、朝には何事もなく起きて治療と集金に行くといって出ていった。
こちらが驚く程のマイペースぶりだ。
「あぅぅぅゼクトさん……私の頭が……変形してないですかね?」
「非常に面白い表現ですね。 …………まったくあんなに飲むから二日酔いですね。 安静にしていてください。 でないと耳元で大音量で歌いますからね」
「勘弁してくださぁい……そんな事したら私の頭は多分爆発しますぅ……」
「それはそれで面白そうですけどね。 しばらくはお酒禁止です」
「……ふぁぁぃ」
弱々しい返事をした後にベッドに突っ伏したままのリリア。
これは少なくとも昼過ぎまでは起きないな。
苛めてもいいが、今日はアリアとルリアもいるのだしあの二人に観光させてやらないとな。
「まったく。 今日はアリア様たちを案内しておきますので、しっかりと休んでいてください。 何かあったらホームにアカネがいますので呼んでください」
「分かりました。 二人をお願いしますぅ……ぅぅぅぅぅ」
完全に役立たずと化している我がご主人様。
辛そうなので帰りにスッキリしたものでも買ってくるとしよう。
家族であっても寮には泊まれない規則があるので、二人にはレムナントの割とお高い宿に泊まってもらっている。
あの二人は割と早い段階で宿に行ったので元気な筈だ。
目的の宿へ到着すると二人は既に準備を終えていたようで宿の一階でのんびりと寛ぎ、宿の女将さんと楽しそうにお喋りをしていた。
「あらゼクトさんおはようございます」
「あ、ゼクトお兄ちゃんおはよー!」
「お二人ともおはようございます。 二人とも素敵なお召し物ですね。 とてもよくお似合いですよ」
アリアは緑色のワンピースで二の腕までが露出している中々に紳士ポイントの高い服だ。
手元にある麦わら帽子が非常によく似合いそうだ。
ルリアも白いシャツにピンクのスカートとお嬢様チックで非常に可愛らしい。
濃すぎない蒼のリボンがいいコントラストになっている。
「うふふふ。 ありがとうございます。 ところでリリアはどうしたんですか?」
「リリア様なら二日酔いでベッドのお供になっていますね」
「リリアお姉ちゃん情けないなぁ。 じゃあ今日はゼクトお兄ちゃんが案内してくれるの?」
「ええ。 今日はのんびりと楽しみましょうか」
「はーい! えへへー楽しみだねアリアお姉ちゃん!」
「そうね。 私も楽しみにしていますよゼクトさん」
楽しそうに笑っているが、アリアはどうやらからかい半分な気もするな。
いいだろう。ゼクトさんのスーパープレゼン能力を見せてやる。
ポンコツと言われた事もあるが、たぶん行けるはずだ。
「最初にお二人にも関係のある公園に行きましょうかね」
「えー? 私達に?」
「そうです。 楽しみにしていてください」
二人を促し、早速出かける事にしよう。
宿をでて早速目的の場所へ二人を案内しようとすると、ルリアが手を繋いできた。
「えへへ。 ほらアリアお姉ちゃんも!」
「あらあら。 じゃあ繋ぎましょうか」
「三人一緒だと楽しいね!」
うーむ。ルリアはまだ幼い分何というか自分の娘みたいだな。
ついつい頬が緩んでしまう。
「そうですね。 じゃあ三人で行きましょう」
「うふふふふふふ。 これだと私達夫婦みたいじゃないですか?」
「ゼクトお兄ちゃんがお父さんで、アリアお姉ちゃんがお母さん?」
「私がお父さんですか。 ……ルリア様、ちょっとお父さんって呼んでくれますか?」
「おとうさん!」
…………この笑顔でこれは中々にくるものがあるな。
お父さんか……。いいな。
ルリアが娘なら俺は溺愛する自信がある。
「ふふふ。 じゃあ私もあなたって呼びましょうか?」
「それも捨てがたいですね」
「じゃあ今日はあなたと楽しみましょうか」
ふぅー……落ち着けマイ紳士ソウルよ。
今日は平常心で頑張るのだ俺。
紳士に栄光あれ!
よしっ……大丈夫。
「あら? もしかしてゼクトさん照れてます?」
「あ、本当だ! ちょっと顔が赤い!」
「気のせいです。 じゃあまずはヴィスコール中央公園からですね」
無理矢理話を逸らさないといつまでもからかわれてしまいそうだな。
恐るべしヴィスコール姉妹め。
……少しだけ呼び方を変えて、誰かの特別になるというのは……悪くないかもしれないな。
三人で手を繋ぎその暖かさを感じながら歩くなかで、そんな事を考えてしまった。
「ぬすまれた?」
「すべては私の責任だ。 補償はもちろんさせてもらいます。 どうか責任は私にあるので処罰は私のみにしていただきたい」
ギルドを訪れたミソラを迎えたのは一瞬の緊張感と、それにつづく焦燥感とでもいうべきものだった。
ギルド員に案内されて向かったのはギルドマスターの部屋である。
ゴルドアはミソラの姿を認めると早々に頭を下げ、ミソラの稼いだお金が盗まれてしまった事を正直に話す。
そんな様子を特に気にした風でもないミソラがぼーっとした様子で聞いている。
「まぁ……いいよ。 おかねはべつにどうでもいい。 しょうじきつかいみちもないしむだにたまるだけだったから。 つぎからきをつけて。 じゃっ」
それだけ言うとミソラはそのまま部屋を出ようとする。
これをこのまま帰してしまってはゴルドアはその責任の重さから逃げられず潰れてしまうような気がしてついつい引き留めてしまう。
「ま、待ってくれ! せめて補償分だけでも受け取ってくれ! ここで簡単に許されてしまっては私は自分が許せない!」
「んー。 そういえばそんなかんたんにぬすまれるところにおいてたの?」
「……いや。 一応専用の特別金庫に入れていたのだが、何者かが超高温で焼いたような形跡があった。 耐魔力い優れた金庫を焼き切るような実力者などそうそういないと思うのだが。 ……これは言い訳だな。 そんなものに安心してしまった私の落ち度だ」
「そんなものにいれてたらだれだってあんしんする。 むしろなぜそこをねらってきたのかをしるべき」
ミソラの指摘に確かにと考えを巡らせる。
今まではとにかくミソラに謝罪をする事ばかりに考えをとられてしまい、そちらは保留にしていた。
まだしっかりと謝罪出来ているわけではないが、少なくともミソラが気にしていないという事で安心感を得たゴルドアは犯人像について考える。
「……ギルドは依頼の受付や支払いも肩代わりしているので金は確かにあるが……ここを狙うのは流石にリスクが高すぎる気もする」
「…………もしかしてわたしをひっぱりだすためとか? これでおこったわたしがぎるどをはなれることをきたいしたとか」
「無い……とは言い切れないな……」
ミソラ自身はどうでもいいと思っているが、もしかしたら自分が招いた事かもしれないと思うと少しだけ協力しようかとも考えるミソラ。
そんな中、一人のギルド員が子供を連れて部屋へと入って来た。
「ギルドマスター! こ、この子が朝不審な人物を見たそうです!」
「なんだと!? 誰だ!? どんな奴だった!?」
急に詰め寄ったギルドマスターに驚きながらも少年は何とかたどたどしく答える。
「えっ……えっと。 朝の手紙の配達に来た時にギルドから金髪の男の人が出てきました。 顔は隠れてたので見えませんでしたけど……。 あ、あと右手の甲に炎みたいな紋章がありました!」
「良い情報だ少年! 私も調査に向かう!」
そう言い残してゴルドアは早速走り去っていった。
慌ただしい男である。
ミソラは少年を見て、どこかで見た顔だなと考えながら一体どこだったかと思いだそうとする。
逆に少年は相手の蒼い髪に容姿を見て、間違いなくこの人だと確信していた。
「あ、あの! も、もしかして大英雄リリア様の使い魔の方ですか!?」
「ん? そうだよ」
「ぼ、ぼくはその。 前に火竜に襲われた時に助けてもらったものです! あの時は本当にありがとうございました!」
少年のその言葉を聞いて腹が千切れかけていた子供がいた事を思い出したミソラ。
「あぁ。 あのときの。 べつにきにしなくていいよ。 りりあ様のめいれいだからたすけた。 それだけ」
そっけない返事ではあるが、それでも少年はキラキラした目でミソラを見る。
「じゃあわたしはかえる」
「はい! ありがとうございます!」
声をかけられた事にひたすら感動している少年。
ミソラはそのまま出ていこうとして足を止め、少年に一度振り向く。
「もしかしたらはんにんをみたきみはねらわれるかもしれない。 そのときはだれかにたすけをもとめるように」
そう言い残してミソラは足早にギルドを出ていく。
既にミソラの頭の中はゼクトと遊ぶ事だけで埋め尽くされていた。
レムナントの外壁の上から千里眼でひたすらにレムナント全体の監視を続けていたレイブンは思う。
今回の盗難を起こした犯人を使えばミソラをうまくおびき出せるかもしれないと。
レイブンの千里眼は透視能力もあり、その飛びぬけた視力と透視能力。そして脳内での情報処理能力をフル回転させて監視を行っていた。
それはレムナント全域を網羅しており、勿論盗難を行っていた男も把握しており、先ほどのやり取りや昨夜のゼクト達とのやり取りも見ていた。
多少の事情は把握出来たレイブンは作戦を練り始める。
「……邪神様は使い魔にされている可能性がやはり高いな。 ……ならばまずはフォームランドで必要な物を手に入れるか。 その後にあの犯人と……」
そう呟き、レイブンの目は嬉しそうにギルドから走って出ていく少年を見つめる。
「あのガキも使えそうだな」
にやりと笑い、暗躍を始めるのだった。
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