第五十四話


 ゼクト「さて唐突に始まる紳士会議のお時間だ」

 ヤクト「本当に唐突だな」

 店主「まぁこの会議は俺にとってある意味最高の時間だからな。 余裕で店も閉めてきたぜ」

 ゴード「それは……大丈夫なのか?」

 店主「ゼクトの旦那の御蔭で儲かってるからな。 一日閉めたくらいじゃなんともない。 それで今回の議題は?」

 ゼクト「うむ。 今回もまたヤクトに関する事だ」

 ヤクト「ん? 俺か?」

 ゼクト「ああ。 お前結婚するけど、この世界って結婚式はなくてただパーティするだけなんだよな?」

 ゴード「うむ。 貴族や王族になってくるそこそこのセレモニーを行うが、一般では近親者を集めてパーティ程度だな」

 ヤクト「実際その程度のつもりだが?」

 ゼクト「甘い! 結婚するならその日を大切なものにしなければならない! ましてや結婚のパーティなんて女性が主役なのだ! つまり! エレインが最高に喜ぶものにしなければならない!」

 店主「お、おお……いつになく気合入ってるな」

 ゴード「結婚においてそこまで気合を入れた一般人は見たことがないな」

 ヤクト「なら旦那は何を考えているんだ?」

 ゼクト「ふふふふふふふ。 ずばりウェディングドレスとケーキだ! ……考えてみろヤクト。 パーティの時にお前の隣に純白の美しいドレスに身を包んだ姿を。 飛び切りのドレスを用意してエレインに喜んでほしくはないか?」

 ヤクト「よし、全力でやろう。 何をすればいい?」

 店主「ドレスなら俺の出番だな! ……ウェディングドレスってなんだ?」

 ゴード「我も知らぬ……。 ケーキは最高の物を余が手配しておこう」

 ヤクト「陛下……いいのか?」

 ゴード「ふっ……紳士仲間である友人の祝い事に余が手を貸してはいかん法律などない。 個人的に贈るのだからなんの問題もないな」

 ヤクト「……まったく。 ありがとう」

 ゼクト「じゃあケーキは任せる。 俺は店主と協力してドレスを作る。 店主はエレインの好みの色やデザインを調べておいてくれ。 俺はまず基本の素材を取りにいく。 ヤクトは店主の店にエレインを連れていけ」

 ヤクト「……ただのノリと悪ふざけの会議だと思っていたが……本当にいい奴等だなお前達」

 店主「ふふん。 紳士は心が広いもんだ」

 ゴード「そういうものだ」

 ゼクト「最初は本当にそうだったけどな。 じゃあ全員行動開始だ」

 ゼ・ヤ・ゴ・店『紳士に栄光あれ』









 「というわけでこんな森の奥まで来たんだが…………どこにいるんだよ上質な繊維を持つ虫って。 どでかい蜘蛛らしいけど、一匹でいいのかとかそこら辺聞くの忘れてた。 テンションが上がりすぎていた証拠だな」


 絶賛森の中を探索中のゼクトさんですはい。

 ウェディングドレスがどういう物かを店主に伝えたら最高級の生地を作るならリーファススパイダーが一番良いという事で、場所とどんな姿かを聞いて早速狩りに来たんだが全くそれらしいのが見当たらない。


 かれこれ三時間近く捜索しているのだが、出てくるのはでかい芋虫だの蛾だの猪だの少しばかりデカいオークのような物だったりと邪魔くさい。全て見つけた瞬間に一刀で片付けているのだが、これは見つけるのが大変だ。


 「……とはいえ折角の晴れ舞台だからな。 気合い入れて探し出さないとな」


 そう意気込んでみたものの、出てくるのは虫、虫、虫、獣、虫、獣、変な竜、オーク、そしてまた虫。

 かれこれ更に三時間程捜索するもやはり見つからない。


 だんだんイライラしてくるな。

 いっそこの森を一気に刻んで見つけてやろうかとすら思えてくる。

 森林環境が変わって生体系が狂うかもしれないが、俺がイライラで狂ってここを消すよりは健全な気もする。



 それでも何とか自制しつつイライラしながらも向かってくる敵を斬殺していく。

 だんだんと敵の種類も変わってきて蝶のように綺麗なのから、木から何やらヒト型の何かが出てきたりしているが、問答無用で即殺しているのでどんな生き物なのかは知らん。

 とにかく視界に入って攻撃のモーションを一瞬でも取ったら斬り捨てている。


 「……というかこの森マジでなんだよ。 いくら何でも獲物見つけた瞬間に襲いかかるっておかしくない? 攻撃的すぎるだろ。 なにこの森って生存競争が激しいのか?」


 いくらなんでも襲撃される回数が異常すぎる。

 これは普通の冒険者ならすでに五、六回は多分死んでるぞ。

 そんな事を考えながらひたすらに捜索していると、少し日も傾き始めていた。

 ここまで来てまた戻ってくるのは流石に面倒くさい。

 こうなったら意地でも捕獲してやる。

 改めて意気込むと、何かしらの気配が近づいてきた。

 また敵か鬱陶しい。


 「あんたねぇ! いい加減どっか行きなさ、えっ」


 「あっ」


 突然出てきた金髪美女。

 弓を構え横合いから出てきたため反射的に斬ってしまった。

 見事に胴体真っ二つだ。

 

 「……うっそ。 わ……たし……死ぬ?」


 「……はっ! しまったついつい証拠隠滅しようとか考えてしまった。 えーと、確か念のために……あったあった」


 ついつい現実逃避しようとしてしまった思考を引き戻し、下半身を無理矢理くっつけて手持ちの回復薬をぶっかける。

 ちょっと申し訳ない気もしたので口からも無理矢理飲ませると何とか傷はふさがった。

 

 ……ギリギリ間に合って良かった。あやうく通り魔殺人事件を引き起こす所だった。若干アウトな気もしなくはないが多分大丈夫。証拠はない。

 あ、血が飛び散ってるな。見られると困る証拠になりそうな物は全て燃やす。


 流石に胴体真っ二つは堪えたのか金髪美女は意識を失った。

 いやはや夢として誤魔化されてくれないかな。

 起きたときに忘れていますように。


 「ん? あれ耳が長い」


 ファンタジーにありがちなエルフさんかな?

 いきなり弓矢を人に向けるとかどんな教育受けてるエルフなんだ全く。

 思わず斬殺しちゃったじゃないか。

 ……どう考えても俺が悪いな。



 流石にこのエンカウント率マックスの場所で放置するわけにもいかない。かといってここを出るのは負けた気がするので嫌だ。


 ……野宿しかないですよねー。……さっき殺したオークとか猪みたいのとか食べれるかな?

 

 


 

 猪は毛の処理が面倒だなと思い、オークの肉を少しばかり切り取ってステーキ状にしてみた。

 適当に石を組んで火をくべて、綺麗にあらった少し平たく大きい石を鉄板代わりにオークステーキを焼いてみる。

 正直調味料なんぞ持ってきていないので素焼きだ。

 脂はそこそこに多そうなのでいい匂いはするんだが……塩はやっぱり欲しいな。

 

 「んっ……なんだか……いい匂い?」


 起きた! 起きちゃった! 忘れてておくれよ!

 起き上がったエルフっ娘の反応についつい注視してしまう。

 

 「目が覚めましたか? ご気分は如何ですか?」


 「えっ? あっ、大丈夫です。 ……ってあぁぁぁぁぁぁぁ! あんた森を荒らしてた奴!」


 あ、覚えてましたか。

 ちょっと誤魔化してみるか。


 「えっと……なんの事でしょうか?」


 「惚けないでよ! エルフの管轄する森までどんどん侵入してくるし、撃退用の魔物は全部殺しちゃうし、しまいには特別製のモーフィンやドライアドまで! 一体なんのつもりなのよ!? っていうか……あれ? 私……斬られたんじゃ……」


 「いえいえきちんと生きていますよ。 それより魔物をけしかけていたのは貴女だったんですね。 目的の物さえ手に入れればすぐに退散しますのでもう少しお待ちください。 襲ってさえこなければ私もむやみやたらと殺したりはしませんよ」


 「そ、そう。 一体何が目的なの?」


 とてもとても不審そうなエルフさん。

 いやぁ。 エルフさんがへそ出しファッションじゃなければ真っ二つにした時に服が破れててバレる所だったぜ。

 血糊なんかもしっかり処分しているし……きっと大丈夫。うんOK。


 「リーファススパイダーとやらを探しているんですけど、全然見つからなくてですね」


 「あぁ、あの蜘蛛ならこの時期は洞窟で巣をつくっているわよ。 ……ウロチョロされても面倒だし、案内しようか?」


 「あ、本当ですか? それは助かります」


 「勘違いしないでよ! あんたにこれ以上森を荒らされるのが嫌なだけなんだからね!」


 ぷんぷんしながらそういうエルフさん。

 惜しいな。ここで赤面しながら言ってくれれば完璧なツンデレなんだが。

 まぁこちらに対する好意なんてゼロだろうから仕方ないと言えば仕方ないが、ここまでテンプレなツンデレもあんまり見ないからからかいたくなるな。


 っていうか本当にエルフさんなんだろうか。

 直接聞くのもアレだから今は触れないでおくか。



 取りあえず夜も更けてきているので朝まで野宿をして朝に行動開始する事にした。

 余談だがオークの肉は意外と美味しかった。


 ツンエルフさんに案内されながら向かった先は森の奥の崖沿い。

 下から見あげるような形になっており、崖の中腹付近に結構でかい横穴がある。

 あそこに巣を張っているのか。普通にいったら面倒な場所だろうな。


 「……もしかして高値の理由はこんな場所にあるからか?」


 「リーファススパイダーの何が高値なの?」

 

 「いやぁ……何というかソレから獲れる糸が高級な布になるとか何とか」


 「へぇー。 私達は草木を使って服を作るからなぁ。 魔物の糸を使うなんてヒトも妙な事を考えるのね」


 「まったくですね。 開拓精神が素晴らしいですね」


 「貴方もヒトじゃない」


 「そうだった!」


 惚けてみるとくすくすと笑うエルフさん。

 うむぅ、この世界は美人さんが多いがエルフは確かにずば抜けて容姿が整ってるな。

 種族全体がこんなだと、美醜に関してはエルフはうるさいのだろうか。

 まぁそこら辺は特に興味ないのでどうでもいいけども。


 高さ的にはだいたい十五メートルくらいか。

 余裕だな。


 「でもどうやってあそこまでい……え?」


 エルフさんが何か言い切る前に飛んでしまった。

 後でいいか。


 崖の出っ張りを踏み台にして一気に横穴の中に侵入する。

 …………臭い。

 なんというか腐臭というか死臭というか……次はないだろうけど、来世もあるならもう少し換気の出来る場所に巣を作ってほしいものだ。


 さっさと中に進んでいくと、大量に蜘蛛がいるのかと思っていたがどうやら違った。

  

 一言でいうならデカい。

 とにかくデカい。

 そうだな、大型トラックくらいの蜘蛛っていえば分かってもらえるだろうか。


 

 「うっわ気持ち悪いなぁ。 がんでーヴぁさんが喜びそうな見た目だ」


 そういやがんでーヴぁさんも元気かな。あの人が五剣の中で一番きもい趣味だったな。

 お、エルフさんが何やら飛んできおった。

 これも魔法かな?


 「あ、あああああ、あんたねぇ! 人の話をきちんと聞きなさいよ!」


 「いや失礼。 案内さえしてもらえれば後はどうとでもなりますので、ついつい先走ってしまいました」


 「べ、別にいいけどってデカぁ! え、デカすぎよ!」


 「あ、やっぱりそうなんですか? デカいですよねー」


 まぁデカいのは良いとして。

 サクッと殺して素材だけ持って帰りたいが、素材がどうやって取ればいいのか分からない。

 

 こんな時は捕獲して操るのが一番だな。


 空気を切り裂くような勢いでエルフさんに向かって脚が飛んできた。

 ラッキーだな。直接貼れる。


 「ひっ!?」


 エルフさんが小さく悲鳴を上げるが、その体に穴が開く前に脚を掴みとり縛縄符と傀儡符を貼り付ける。

 貼った感じ抵抗も少ない。所詮は虫か。


 「危なかったですね。 終わりましたよ」


 「は!? なに言ってるのよ!? 何かを二枚貼っただけじゃない!?」


 「傍から見たらそうですね。 でもほら。 もうこの蜘蛛はしばらくは私の玩具です」


 手を差し出させてスリスリさせてみる。

 ……蜘蛛の脚って妙に毛深いな。

 もう絶対やらん、きもい。


 「うそ……いったいなにをしたの?」


 「話し合い(一方的)ですね」


 「何も話してないじゃない!? ……はぁー……いいわ。 これで目的は達成したのよね? 森から出て行ってよ」


 「はい。 ご迷惑をおかけしました。 もし何かお困りごとがあれば、レムナントのリリアかゼクトをお尋ねください。 その名前を出せば大抵のヒトは快く答えてくれると思いますよ」


 「べ、別にヒトの世界に興味なんてないし……。 まぁでもお礼として受け取っておくわ。 貴方の名前はなんて言うの?」


 「私はゼクトです」


 「そう。 レムナントのゼクトね。 覚えておいてあげるわよ。 感謝しなさい」


 おお。ここまでテンプレなツンデレさんに遭遇したのは初めてだ。

 何ていうか……こう、ゲームでレアなキャラに遭遇した時のような感覚だな。


 「そうですね、感謝しておきます。 貴女のお名前は?」


 「私はイレーヌよ。 ……じゃあ今度はせめて森を荒らさないように来なさいよね」


 イレーヌはそういうと何かの魔法で空を飛んでいった。

 うぅむ。身の回りにはなかなかいないタイプのツンデレだったな。

 ド級のヤンデレやドMなんかはいるが、ちょっと新鮮だ。


 『ギュグ……グググ』


 「あ、お前を連れて行かないとな」


 目的のブツは手に入ったし、こんな所にいる意味もないしな。

 蜘蛛を走らせ、その隣を並走する形でレムナントへダッシュで戻る。

 できればこいつ一匹で終わりにしてほしいなぁ。 




 ※ふふふふふ(*'ω'*) いつもと小話の順番が逆だから驚いただろう(*´ω`*)

  とうとう本編が小話にいど、あ、うわ、やめ何をするだぁぁぁぁぁぁ……

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