第11話

細く狭い範囲に、強力でなにかよくわからない不気味なものを宿す深い目に。


その目に俺は心底恐怖した。


しかし千石の恐怖を感知する機能は、半ば壊れている。


「おい、聞いてんのかよ」


千石の声に小久保が応えた。


「そうだ、思い出した。僕はもう死んでしまったんだ。その断崖絶壁から落ちて」


「そうだよ。おまえはもう死んだんだよ。ぐずぐずしてる暇はないぜ。よい子はとっととあの世に行く時間だぜ」


「そうそう、思い出した。思い出したよ。全てね」


「そりゃよかった。だったらさっさとあの世に行けよ」


「うん、全部思い出したからね」


小久保が笑った。


千石の無駄に柔軟な顔が作り出すぬちゃっとした笑いではない。


それでいて千石以上に異様で奇妙な顔で。


無機質。鉱物。


そういった人間ではない、それどころか生き物ですらないなにかが笑ったもの。


俺にはそうとしか見えなかった。

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