第2話

「何人も見てる。十人以上にもなるかな。おまえの知っているやつも、その中にはいるぞ」


いつもよりも半オクターブ高い声で、俺は聞いた。「誰?」


「磯野、それに小野田」


磯野。小野田。


二人とも知っている。


真面目と堅物をそのまま擬人化したような二人だ。


冗談とか嘘とかいった日本語をまるで知らないその様は、誠実さなどは軽く通り越して、もはや奇人変人の領域に達している。


「あの二人か……」


「似たもの同士でつるんでいるからなあ。二人とも自分に似ているやつなんて滅多にお目にかかれないせいか、男同士なのに、気味が悪いほど仲良くしている。だから当然のことながら、二人同時に見たんだ」


今度は俺が言った。「で?」


「で、とは?」


「だから、それ、俺に言ってどうすんだよ」


千石は、にまあ、と笑った。


こいつはたまにそんな顔をするが、いつ見ても気持ちのいいものではない。


顔の肉が常人と比べて異様なまでに柔らかいせいか、その顔は人間ではなく、人間の目と鼻と口を持ったなんだかの軟体生物が笑っているように見えるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る