完璧主義の年下幼なじみ、俺の前だけ超テキトー。

天道 源

第1話 プロローグ

 俺の幼馴染。

 名を『宇佐見 雪(うさみ ゆき)』。女。

 雪が降り積もる一月一日に生まれた、俺より一つ年下の高校一年。


 ギャルっぽい髪色や小物を持つが、派手で目に余るというわけではない。

 かといって控えめという印象を受けないのは、計算されたナチュラルメイクや表情の作り方、話しぶりのせいだろうが――それも、元の素材のレベルが高いから成し遂げられる技だろう。


 金髪碧眼――これは俺、『三枝 レオ(さえぐさ れお)』の生まれつきの容姿だ。

 他人から好奇心の目で見られることが多いのだが、それもすぐに消えることを知っている。

 なぜなら外見こそ目立つ俺だが、中身はいたって、平々凡々だから。魔法はすぐ解けてしまうのだ。

 初めて会った人間でも、大抵一週間もすれば、俺への興味はサーっと引いていく。なんの面白みもない、ふつーの人間だからだ。

 ちやほやしてくれていた人が、日に日に興味を無くしていく様は、目の輝きに明確に映る。俺を見る目から、どんどん光が消えていき、俺は一般人以下の存在となる。それを向けられている俺の気持ち、わかりますか……。

 こんな経験を繰り返していると説明すれば、『なぜ俺が一人を好むのか』ということも理解してもらえるだろう。


 反して、俺の幼馴染は、外見の良さと内面の優秀さが比例している。

 俺のような出オチ感のある人間ではなく、その容姿にふさわしい人間性を持っているユキ。

 年下にはみえねーほどに、自信満々な態度は、その自信が鼻につかないほど、完璧な行動結果によって裏付けされているのだ。


 ようするに俺の一つ年下の幼馴染は、学業優秀、容姿端麗、性格完璧で――いや、そこだけは訂正させてもらうことにする。


 たしかにユキは完璧な人間だといえる。

 それは本人も自負していることであるし、それを目指して努力しているのだ。


 だが……、この幼馴染。

 俺の前でだけは、その完璧さを失う。

 

 綺麗に作り上げられた城を、裏側からみたら、一部がハリボテであったかのように。

 俺の前のユキは、その完璧さのツケを払うかのように、俺の前では豹変する。

 

 たとえば、他人がユキに迷惑をかけたとする。

 するとユキは笑顔で、


「ううん、気にしないで? わたし、全然、気にしてないからさ、ね?」


 とかなんとかフォローする。

 もちろん本当に気にしていないし、嘘ではない。

 こいつは気持ちいいほどに他人を助けるから、相手だって喜ぶ。


 だが、その迷惑の原因が俺だったとする。

 すると、こうなる。


「はあー? ちょっと、レオ、どういうこと? 先輩? ねえ、先輩。後輩イジメて、興奮してるんですかー? もしもーし、きこえてますかー?」


 ついでに、頭をツンツンと指でつつきながら、「髪の毛ぐらい整えなよ。せっかくの容姿が台無し」とか小言を口にする。

 大きなお世話だ。俺はもう、容姿は捨てたのだ。


 また、例えば恐れ知らずのクラスメイトが、大変ご愁傷様なことに、告白なんかしたりする。

 そうするとユキは、


「本当に、ありがと。わたし、××くんの気持ち、とっても嬉しいよ。でも、いま、わたしはやるべきことがあるから、そっちに集中したいんだ。だから、ごめんね……? 今は友達として、応援してくれると、嬉しいな」


 とかなんとかいって、気持ちよく相手を諦めさせる。

 いや、諦めさせるならまだいい。

 そこから更に、相手が過熱することもある。なんだそれ。


 で、だ。

 例えば俺が、告白とかされたりする。

 まあ、俺の見た目は前述通り、金髪碧眼で、目立つ。妹も同じらしいが、その衝撃を受けたまま、勘違いを継続させて、俺を特別視し、告白してくる人は存在する。


 すると、ユキはこう言う。


「いやー、レオ先輩、また勘違いされちゃったねえ! 容姿はいいのに、中身はほんと、フツーだもんね、レオは! わたしの遺伝子、わけてあげたいよ、ほんとー。……で、もちろん断ったんだよね? 断りましたよね?――え、あ、うん、だよね。ですよね。そりゃーことわるよね! あはは、レオ、ださっ!」


 そうして笑いながら、ゲームをする俺のほっぺたを指先で突き刺してくるのだ。

 まじでムカつくのだが、年齢以外では、他に勝てるものはなく、俺はされるがままになるしかない。


 でも、それは過去の話かもしれない。

 俺は出会ったのだ。

 出会ってしまったのだ。

 俺の容姿なんか気にせず、俺の性格を肯定してくれて、とっても優しい笑みを浮かべてくれる天使に、出会った。


 そう。

 つまるところ俺は、恋をしたのだ。


 もしかしたらそれは、人生二度目の恋といえるかもしれない。

 一度目は……まあ、いい。今では思い出だ。あの事件は、ユキでさえ話すことはないから、俺も胸の奥にしまっておくんだ。


 とにかく二度目のこの恋は、俺にとっての宝物になった。

 だから、失敗はしたくない――そう思ったのが、何かの間違いだったのか?


 俺は、その思いを、その悩みを、ある意味で一番信頼のおける成功者――幼馴染のユキに相談した。

 俺のベッドに寝転びながら雑誌を見つつ、ふんふん、と超テキトーに相槌を打っていたユキ。

 だが、俺の『ど、どうやれば、連絡先きくほどの仲になれるんだ?』という言葉を聞いて、その表情が固まった。


「……は? ナニイッテンノ?」

「え? だから、相談を……」

「ば、」

「ば?」

「レオの、バカぁあああああああ!」

「ご、ご近所迷惑!」


 これは、俺の人生二度目の恋話と。

 なぜだが完璧を目指す幼馴染の。

 なんだかよくわからない、話である。

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