40 天狗岩の指し示すもの

 根来と祐介は、元也から逃げながら、とにかく天狗岩の元へ向かった。午後四時は、刻々と近付いてきている。どうしても、その時刻には天狗岩の下に立つ必要があったのである。

 この時、祐介はまだ事件の真相に気付いていなかった。犯人が単純に埋蔵金を得るために、このような連続殺人を犯しているのだと思い込んでいたのである。

 さて、二人は天狗岩までたどり着いた。相変わらず、のっぽな天狗岩と彫り込まれた十二支岩が並んでいるのだった。日差しを受けて濃い影が差している。

 腕時計を見る。間もなく午後四時である。

 根来は祐介に尋ねた。

「一体、何が起こると言うんだ」

 祐介は暗号を取り出した。


  水無月の七つ半 天狗の鼻が突き出すところ

  鼻の先にある岩の

  十二の穴を 極楽へ向かえ 北から数えて子丑寅

  左の手に 右の手に 右の手

  入るべからず 青月の夜 地獄ゆき


 そして、説明を開始した。

「ご説明しましょう。暗号の始めの部分『水無月の七つ半』というのは、まさに現在、六月の午後四時のことです。そして『天狗の鼻が突き出すところ』というのは、見ての通り、天狗岩があるこの場所のことを指しています。さて、問題となるのは、次の文です。『鼻の先にある岩の』……これは天狗岩の鼻が突き出している先にある岩、ということになります。ところが、巨大な天狗岩の鼻の先にはどこにも岩などないのです。それに月と時刻を指定しているということから、僕はこの暗号が指し示していることは、月と時刻に関係のあるものと推理したのです」


「ということは、まさか……影か?」

「その通りです。まさに『六月の午後四時に、天狗岩の鼻の影が指し示している岩』という意味になるでしょう。ところで初日は天候が悪かったし、二日目は事件の発生と捜査によって、犯人もこの天狗岩の影を確認できていないでしょう。明日の天気も分かりません。だから、犯人は必ず今日に賭けてきます」

「とにかく、見てみよう……」

 根来は、天狗岩の影が、岩場に斜めに伸びているのを見つけた。その影は確かに鼻が突き出していて、それは十二支岩の一つに重なっていたのである。

「でかしたぞ!」

 と根来は、喜んでその十二支岩に走っていった。その岩には、ちょうど見ざる言わざる聞かざるの猿に似ている、ちょっと滑稽な猿の像が彫り込まれていたのである。

「猿だ! 羽黒。さるだよ」


「ええ。申ですね。それでは、もう一度、暗号を見てみましょう。『十二の穴を』これは洞穴のことだということはすでに述べました。そして『極楽へ向かえ』ということから、その洞穴は東側から西側へと向かう洞穴ということになります。そして、東側の洞穴は十二あり、それを『北から数えて子丑寅』と言うように、北側から数えてゆくのです」

「すると、申の洞穴というのがあるんだな?」

「そうです。東側にある洞穴で、北から九番目の洞穴こそが申の洞穴ということになります。根来さん、そこに先まわりをしましょう」

 祐介がそう言ったので、根来は頷いて、二人はすぐさま東側の海岸へと向かったのだった。


 犯人は必ず埋蔵金を探しに現れる。根来と祐介は犯人をあぶり出す為に、ついに東側の洞穴の中で、岩場のもっとも低い位置にある洞穴の入り口にたどり着いた。

「どうする。中へ入ってみるか?」

「その方がいいでしょう。ここにいたら、犯人は警戒して近付いてこないでしょうし、ひとまず、埋蔵金がどんなものか、確認してみたいと思います」

「そうだな……」

 祐介はまたも暗号を思い出す。

「この中に入ったら、おそらく分かれ道があるのでしょう。そこを『左の手に 右の手に 右の手』すなわち、左、右、右に曲がれば良いのだと思います」

 祐介がそう言うと、根来はすっかり安心して、

「そこまで分かってりゃ、もう怖いものなしだな。よし、早速、埋蔵金とやらを拝むとするか!」

 と言った。

 こうして、二人は暗い洞穴の中に入って行ったのであった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る