1 尾上家の埋蔵金
青月島は空から見ると
それらの岩は、天狗の鼻が突き出した天狗岩だとか、十二支の動物たちが彫り込まれた十二支岩だとか呼ばれているもので、江戸時代に、付近の漁師がこの島に立ち寄った際に、信仰物として祀っていたものだと伝えられている。
この青月島を所有しているのは、山梨県の武家の末裔である
さて、先代の
ところが、太平洋戦争が始まる少しばかり前から、明安はこの宝物を船でこそこそと青月島に運んでしまった。この戦争によって、軍に埋蔵金を没収されるのを怖れたのだとか、色々なことを噂されているが、その真意は未だに分かっていない。そして、どこかに隠されたとされているその埋蔵金は、いまだに見つかっていないのである。
さて、明安と妻の早苗の間には子供が産まれなかった。そこで、明安は養子として
このため、和潤は、明安に息子として認めてもらえず、また和潤自身も明安を親として認めなかったそうである。
明安は死する時、きわめて奇妙な遺言を残した。勿論のこと、尾上家の資産は息子である和潤のものとなった。しかし、あの巨万の埋蔵金だけは、尾上家の者であるか、または、尾上家の人間でなくても、この和潤の血を受け継いだものでありさえすれば、誰にでも相続権が与えられているというのである。ところが、実際に相続することができるのは、埋蔵金を発見した者ただ一人、と規定したのである。
明安はこのような不可思議で酔狂じみた遺言を残して、この世を去っていった。そして、和潤は、生前の明安から埋蔵金が隠されている場所を指し示している謎の暗号文を受け取っている。
しかし、和潤はその生涯で、ついに暗号文を解くことができずに、この世を去ってしまったのである。
さて、その和潤も血の繋がらない父の影響をどこかで受けていたのであろう、かなりの遊び人であった。その為、やはり方々に愛人をつくるのに夢中であった。正妻は
さて、ある噂によれば、和潤と巴の結婚は形式的なものであり、そこには何の精神的な交わりもなく、それどころか、英信が和潤と巴の間に産まれた子供であることさえ疑わしいというのである。巴も他に想いを寄せる人がいて、その人との間に産まれた子供がいたのでないか、それが英信なのではないか、ということが容易に想像できるのである。
その証拠には、和潤は明安から受け取った埋蔵金の暗号文を、正妻巴との間に産まれた子である英信にではなく、愛人との間に産まれた
さて、奇妙な出来事は連続する。和潤は一族の者にこのように言い残している。
あの青月島には決して近寄ってはいけない。あの島に近寄れば、一族の間で、埋蔵金をめぐる血で血を洗う凄惨な抗争が巻き起こることであろう。あの島の管理は他人に委ねて、尾上家、またこの和潤の血を受け継ぐ者は一人として、絶対に、あの島に訪れてはいけない。
これが尾上和潤の遺言であった……。
さて、謎の暗号文を受け取った潤一も年若くして病に倒れ、山梨県の病院で、息を引き取ろうというところである。
潤一はベッドの上で、声を震わせて、なにかを伝えようとするが、舌がまわらない。
「潤一さん。もう無理に喋ろうとするな。駄目だよ。喋っちゃ……」
と、潤一の昔からの友人である、田中さんが優しく話しかけた。
「いいんだ……それより、大事なこと……自宅の机……」
「なんだって、自宅の、机?」
「そこに……暗号が……」
そう言うと、潤一はもう何も語れなかった。
潤一は、震える声で自宅の机の中に暗号文があることを訴えたのだ。そして彼は死亡した。これを聞いた田中さんが、潤一の自宅の机の引き出しを開けると、そこには暗号文が入っていた。それはボロボロの和紙に筆でこのように書かれていたのである。
天狗の鼻が突き出すところ
極楽へ向かえ
右の手に
青月の夜
田中さんはこれを、潤一と血の繋がりのある人物に届けようと思って、葬式に現れた、これもまた和潤と愛人との間にできた子供、
東三はしばらく、この和紙の文面を睨んでいたが、なにかに気づいたらしく、途端に顔がぱっと明るくなったかと思うと、帰宅後、尾上家本家に手紙を書き出した。
その手紙の内容は、あの和潤が近づくなと遺言した青月島に相続権を持つ人間を集めようとするものであった……。
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