無題
「お菓子を取ってきますね。」
「はあい」
和やかな昼下がり。マユはイオキベとお茶をしていた。席を立ったイオキベが戻って来るのを待つ間、マユは何をしてようかなあと机に肘を着く。
「やあ。」
隣に立ってにこりと微笑むアンバーに、マユはきょとんとしたまま彼女を見上げた。どうぞ、とジュースを差し出され、ストローに口をつけながらいつここに来たんだろうと首をかしげる。
アンバーがマユに世間話をし、時々質問するように話を振り、それを聞いてマユも同じように話すことを数度繰り返していた。そうしていると、ふとアンバーの手がマユの耳に伸びる。つぅ、と耳の縁をなぞるように触られ、くすぐったさにマユが身を捩るとアンバーの手には彼女の耳飾りがあった。
「おっと、すまないね、取れてしまったみたいだ」
「あれ……??」
そんな簡単に外れるものだったっけと思いつつもアンバーがまた耳に触ろうとしたので慌てて「じぶんでつけます!」と言い耳飾りを返してもらう。そして耳飾りをつけていると、頬杖をついて眺めていたアンバーがこんなことを言い出した。
「きみは右耳につけるんだね」
「?はい。ママがこっちのほうがいいって。」
「右耳は守られる人を意味しているんだけれど、知ってたかな?」
きょとんとして見つめてくる彼女ににこりと微笑んで、その手を伸ばす。指先で少女の髪先をくるくると遊びながら話を続けた。マユはピアスの意味など全く知らなかったため、興味津々といった様子で真剣に話を聞いている。
「左耳が守る人を意味していてね。まあその他にも―――」
「胡桃坂さんに今度は何を話していらっしゃるんですか?」
「おや、保護者が来てしまったようだ。私はこれで失礼するよ。また後でね、お姫様」
いつの間にやらイオキベが戻ってきていた。アンバーがあまり信用できない彼は彼女がマユに何か変なことを言ってはいないかと心配している。
警戒しているイオキベを見て首をすくめると、アンバーはマユの頬にちゅっとキスをし、その場から姿を消した。マユが目を白黒させながら頬に手を当てていると、イオキベは何とも言えない顔でマユと視線を合わせる。
「あのね、せんせい」
イオキベが何を話していたのか聞く前に、マユが口を開いた。どうしましたか?と尋ねるイオキベに、神妙な顔でマユが言う。
「まゆ、守る人になりたいから左耳に耳飾りつけようかなって……」
「……胡桃坂さん」
「はい」
「今の方が似合ってると思います。」
イオキベは何とも言えない顔をしている。それが何故なのか追求するかを迷い、しかし最終的にマユはこっくりと首を縦に振るのだった。
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