第21話 迷宮

 夜になって和香ほのか達が帰ってきた。と言ってもゴンザはいない。街の酒場に飲みに行ったらしい。

 

 夕食を食べながらダンジョンの話を聞くことにした。

 

 使い魔達は家の中では自由にしてもらっている。テーブルに座って一緒に食事を食べているが、新しい使い魔達は人間の言葉は話せない。

 ドガラゴは、何度か進化しているので、その過程かていで覚えたらしい。必要があればドガラゴかヌフが通訳してくれる。

 

「ダンジョンって、暗くてジメジメした洞窟をイメージしてたけど、石造りの神殿って感じだったわ」

「ふーん、歩きやすくていいな。ゴーレム魔石の発掘ができない感じだけど……」

「壁の石をこじり取ると出てくるのよ。それに森とか、岩場の階層もあるみたい」

 

 今日は、3階層まで降りたらしいが、魔石は5個見つかっている。

 

「ヌフ君以外の使い魔も、ゴーレム魔石を見つけていたわ」

「俺も魔力感知ができるようになったから、見つけられるかもしれないな」

 

 慣れたら3手に別れて探した方が効率良さそうだ。

 

「マニュアルを使えば、オートマッピングされるから便利よ」

「おおー、エイメングッズは有能だな」

「各階層にある転移陣に魔力を流すと入り口に帰れたわ」

「ゲームみたいだな。次から3階層に飛べるのか?」

「そうみたいよ。1階層は弱い魔物しかいなかったけど、2階層からはわなとかもあって、魔物もなかなか強かったわ」

 

 転移陣があって、罠があって、深層のボスを倒せばダンジョンコアを得られる。ゲームに似た感じだな。

 

 

 

 翌日、3人でダンジョンに出掛けた。和香の肩にはヌフが乗り、ゴンザの肩にはフクロウがとまっている。俺はヘルンクラムと手をつないで後方を歩く。

 

 転移陣で3階層まで降りる。視界がホワイトアウトして、別の風景が現れる感じは、2度味わっているので慣れたものだ。

 

 広々とした空間に転移した。石畳が四方に広がり太い柱が何本も立っている。遠くは暗くて見えないが、広場全体を薄明かりが照らしている。

 

「なんとも荘厳そうごんな雰囲気だな」

「広すぎて探索が面倒だから、昨日は引き上げてきた」

「今日は2手に別れましょうか?」

「3手じゃないのか?」

「麟太郎君と離れたら、守れないじゃない」

「がははは、あんちゃん、使い魔を寄越よこしな。鍛えてやる」

 

 結局、俺と和香ほのか組とゴンザの2手に別れることにした。俺達には、ドガラゴとメス虎人がつき、ゴンザには、ゴリラとミノタウロスが2頭ずつ付いていく。

 

「ゴンザの方は、しゃべれる魔物がいないけど大丈夫なのか?」

「男はハートで語るもんさ」

 

 ゴンザとミノタウロスが、ゴンゴンとお互いの胸を叩き、肩を組んで笑っている。どうやらこいつらは筋肉で語り合う、筋肉達磨妖怪きんにくだるまようかいだったようだ。

 

「ぶもおおお」

「そうかそうか、がははは」

 

 と楽しそうだ。何が「そうか」なのかさっぱりわからない。でも意志疎通いしそつうは出来ているようなので、このまま別れた。

 

 

 

 歩きながら周囲に気をくばる。俺もだいぶ自然と魔力や気配を感じられるようになってきた。夜の森で使い魔と、かくれんぼして鍛えたのだ。

 

「あそこの柱に魔力反応があるな」

「魔物?」

「いや、反応が小さいからゴーレム魔石だと思う」

「当たりにゃ」

 

 短剣で柱の一部をこじるとレンガ状の石が外れて空洞が現れる。恐る恐る手をいれて魔石を取り出した。

 

幸先さいさきいいわね。この調子で頑張るわよ」

「そうだな。……ん? 何かがくる。和香、気をつけろ」

「了解」

 

 それは柱から柱に飛び移りながらやってきた。俺達の近くの柱に爪を食い込ませてつかまり、グルルルッと牙をく姿は人型のオオカミであった。

 黒っぽい灰色の体毛におおわれた、体長2mほどの人狼は、オオカミの口からよだれをたらし、目が狂気を含んでいる。

 

 和香ほのかが人狼に向かって飛んだ。加速魔法で弾丸のように人狼に突っ込む。だが人狼は隣の柱に飛び付いてあっさり交わしてしまう。

 空中に飛んだ人狼に、俺は火炎放射を吹き付ける。大量の炎がバチバチと体毛を燃やす中、人狼は下に飛びのがれた。

 

 地面に降りた人狼が、ピョンピョンとジグザグに跳ねながら、火炎を交わす。俺は飛び掛かってくる人狼に短剣を振るった。

 

 高周波振動ブレードによって、見た目より長い剣先が人狼の肩口に刺さる。

 

 だが剣が傷を広げる前に、人狼は身体をひねってのがれた。地面を一蹴りした人狼が、俺の右から襲いかかる。

 これをエアシールドで受け止めたところで、和香が横から人狼の腹を蹴り上げた。人狼が吹き飛びゴロゴロと転がる。これに和香が加速し、剣を突き立てた。

 

 ブツン!

 

 首に突き立った剣が人狼の骨を断ち、頭が明後日の方向を向いたオオカミがこと切れる。

 

「うわー、これが集団で来たらヤバイな」

「大丈夫、大丈夫、私が守ってあげるわ」

「いざとなったら、我輩わがはい達、使い魔も参戦するにゃ。安心して戦うといいにゃ」

「あっしも、麟君りんくん守り隊の一員として頑張らせていただきやす」

「ガウッ」

 ツンツン


 お前も、一員なんかーい!

 

 こうして広い広場を、ゴーレム魔石や下への階段を探しながら歩き回る。同じような景色で迷いそうになるが、マニュアルがマッピングしてくれるので、大いに助かった。

 

 ワナも結構ある。大抵は気をつけていれば、出っ張りや魔法陣に気づくのだが、和香はあまり気にしていないのか、良く踏んづける。

 

 ガコッ、プシュー!

 

「麟太郎君、踏んじゃったぁ」

「ヤバい、毒ガスだ。風魔法で吹き飛ばせ!」

 

 手から風を出すと大体は回避できる。

 

「みんな大丈夫か?」

旦那だんなあねさんが……」

 

 うわー、和香が泡を吹いて倒れてる。もろに吸ったみたいだ。こういう時は、解毒の魔法だ。毒が強いと魔力をごっそり持っていかれるが、便利な魔法だ。

 

「和香は足元気を付けろよなぁ。即死の毒とかあったらどうすんだよ」

「いやあ、メンゴ、メンゴ」

 

 まったく反省してないだろ!

 

 ガコッ

 

「麟太郎く~ん」

 

 今度は何だ? と思ったら、バカン! と地面が割れた。落とし穴だ。

 

「下にシールドを出すんだ!」

 

 落とし穴の底には無数のやりが立っていた。エアシールドを足の下に出して、串刺しにならずに済んだ。

 俺とドガラゴ達が、冷や汗混じりに穴からい出ると、和香とヌフがすでに地上にいた。

 こいつら加速魔法で素早く回避したな。ズルいぞ。

 

「ヘルンクラムはどうした?」

「あやつは、固いから大丈夫なはずにゃ。ちょっと下を見てくるにゃ」

 

 10分ほどでヘルンクラムとヌフが、穴から飛び上がってきた。手には金や魔石を持っている。落とし穴の底に、被害にあった冒険者の持ち物が転がっていたそうだ。

 

「ゴーレム魔石が3個もあるよ。死体漁したいあさりはなんだけど、お手柄だぞヘルンクラム」

 

 ニパッと笑うヘルンクラムをワシャワシャと撫でてやった。

 

「落とし穴を発見した私もお手柄よね」

「そんなわけないだろ。気を付けて歩いてくれ」

「チッ」

 

 魔物にも良く出会う。人狼は素早くて、なかなか攻撃が当たらない厄介な魔物だ。

 他に、牛頭のミノタウロスや豚頭のオークがいた。

 

「ミノタウロスは、ノロマだから楽勝ね」

 

 和香が二刀流を振るう。1刀目の長剣が鈍い音を立てて弾かれた。だが2刀目の短剣は、腕の肉を深々と切りく。

 

「麟太郎君、高周波振動ブレードが弾かれたわ」

「部分的に皮膚を硬化させてるようだ。二段攻撃してダメージをかせぐんだ」

 

 硬気功こうきこうのような技を使っているようだ。気だか魔力だかで、皮膚ひふが部分的に硬くなり、高周波振動ブレードを弾いている。瞬時にあちこち対応できるわけではなさそうだ。

 

 和香ほのかがミノタウロスの腕を斬り付けながら、首に一撃加えると、ミノタウロスの頭がゴトリと床に落ち、体長3mの巨体がズズンと倒れた。

 俺には、そんな器用なマネはできない。ミノタウロスの顔面に、魔法を当ててから腹を裂く。何度か繰り返して、なんとかミノタウロスを倒した。

 

「今度は、オークよ。足が丸太みたいだわ」

「オークは雑魚じゃないのかよ。筋肉量が半端はんぱないぞ」

 

 豚頭のオークは、ミノタウロスより背が低いが横幅がある。すごい筋肉の塊だ。ブヒィイイと甲高かんだかい声で威嚇いかくしてきた。

 

 和香が二刀流を叩きつける。硬気功は無いようだ。剣が刺さった。だが腕を斬り落とすまではいかない。筋肉が分厚ぶあついからか?

 

「麟太郎君、高周波振動ブレードが途中で無くなったわ」

「魔力に干渉かんしょうして、魔法を打ち消してるのか?」

 

 俺は、オークに向かって雷撃を放った。バリバリとカミナリの閃光せんこうが走る。ドドンと音がして、オークが閃光に包まれた。

 オークはシュウシュウと煙を上げるが、あまりげてはいないようだ。やはり魔法が効きづらい。

 だが気絶スタンしたのか動かない。

 

 チャンスとばかりに和香がメッタ斬りにする。気絶しているときは、魔力干渉もないようだ。面白いように斬れる。

 

「なんかどの魔物も、いっぱい群れてきたらみそうだな」

「なんとなく対策もわかってきたから、何とかなるわよ」

 

 和香は気楽だなぁ。そんな感じであらかた探索を終えたかなという頃、壁に穴が開いているのを見つけた。たぶんあれが下に続く階段だろう。

 

「ゴンザさんがくる前に下をのぞいてみましょうか?」

 

 ガコッ

 

 また和香ほのかがワナを踏んだ。次は何だ?

 ゴゴゴと周囲に壁がせり上がり、体育館ほどの空間が出来上がる。

 黒い霧が床からき上がり、魔物がワラワラと出現した。人狼、ミノ、オーク、すごい数だ。

 

 モンスターハウスかよ!

 

 和香が嬉々として飛び出して行った。使い魔もここぞとばかりに張り切っている。

 

 ヘルンクラムがオークに頭から突っ込んだ。加速魔法で大きな砲弾と化した、ヘルンクラムの頭突きが、オークの腹に突き刺さる。

 叫びを上げて、身体をくの字に曲げたオークの首を、ヘルンクラムが剣で斬り裂いた。

 

 ドガラゴはミノタウロスと両腕を組み、力比べしている。ドガラゴもミノも二の腕がボコリと膨れ上がっている。

 ドガラゴがへッドバットで、頭突きを喰らわせると、ミノタウロスが鼻血を出してよろめいた。

 そこを一本背負いでドドンと床に転がして、メス虎人が手刀を胸に叩き込む。ミノタウロスは胸から血を吹き出して、呆気あっけなく命を散らした。

 

「いくわよう。よいしょー!」

 

 和香が飛び上がり、クルリと前転してオークの頭に踵落かかとおとしをあびびせる。

 脳震盪のうしんとうを起こしたオークの胸に長剣が深々と突き刺さった。

 

 俺は、せまりくる魔物に、エアシールドを飛ばしまくる。エアシールドのカウンター攻撃でよろめく魔物に、ヌフの風刃が突き刺さる。

 

「次から次へと魔物が出てくるな」

「ダンジョンに強者と認められたにゃ。本気で潰しにきてるにゃ」

 

 突然、ドゴンと壁が崩れて穴が開いた。ホコリを巻き上げた穴からゴンザが現れる。

 なんだよ、穴開けて逃げれば良かったのかよ!

 

「がははは、パーティーは終わってねえだろうなぁ」

 

 筋肉達磨きんにくだるまチームの登場だ。

 

 そろそろ疲れてきた俺は、悪党面あくとうづらゆがめて楽しそうに笑っているゴンザが天使に見えた。

 

「ゴンザさん、遅~い!」

真打しんうちってな、遅れて登場するもんさ。がははは」

 

 フクロウさんが、猛禽類もうきんるいの鋭い爪で魔物の目を潰した。ゴンザは、ミノタウロスの硬気功をものともず、肩から一閃いっせん、叩き斬る。

 使い魔達は2人一組で連携れんけいして、魔物をほふっていた。なかなか良い連携じゃないか。

 

 

「フーッ、なんとかしのげたな」

「これくらい、楽勝よう」

「困った時は、いつでも悪党印の清掃屋を頼りたまえ。がははは」

 

 

 

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