第12話 勇者よ、マジか。
「私の本当の名前は、ハイリエッタ・フレイヤ・ジャスティーナ・クイントン。リオーレ王国の第6王女です」
急に衝撃の告白を受け、石化する男性陣。
それを尻目に、ハイリーことハイリエッタ王女はつらつらと身の上を語る。
「ライアンズはおばあ様の旧姓ですの。ハイリー・ライアンズは、公式の場ではない時などに名乗ることにしている名前なのです」
「そっ、それはどうして、……ですか?」
思わず敬語で話すダンテに、ハイリーは少し恥ずかしそうな表情を見せた。
「兄が3人、姉が5人と、兄姉が多いものですから、末子である私はとても自由に育てられまして」
「……何となくわかるような気がする」
「それを良いことによく身分を隠して城外へ出掛けていたのですが、すっかり平民と馴染んでしまいましたの」
「一国の王女が平民と馴染むって……」
「あまり宜しくないですよね?それで困った大臣が特別な法を定めたのです。『公の場以外かつ、ドレスを着用していない場合。または本人が「ハイリー」と名乗る場合に限り、平民は同様の口調でハイリエッタ第6王女と会話することを許可する』と」
その言葉を聞いた瞬間、今まで息を止めていたジュリオ親子がその場に倒れ込んだ。
「よかったーーー!危うく不敬罪からの絞首刑で人生終わるとこだったー!」
「まさか勇者様が王女様だったなんて!!」
モリスの言葉に、ハイリーは首を振った。
「勇者である以上、今はただの『ハイリー・ライアンズ』です。どうぞ今までと変わりなく接してくださいませ」
「なんだかやりづれーけど、今さら敬語で話すのも変だしな」
「貴方はもう少し敬意をもってくださっても良いのですよ?」
少しトゲのあるハイリーの言葉に鼻息で答えるジュリオであった。
また睨み合いが始まりそうな雰囲気を壊すべく、ダンテが誰ともなく質問してみる。
「ところで、不勉強ですまないがリオーレ王国ってどこにあるんだ?」
「我が国、ガトー王国の南側だよ。面積は小さいけど温暖な気候で、安定して作物が採れるいい土地なんだ。我が国とは同盟関係で、こちらの騎士団長とあちらの大臣は遠い親戚にあたるらしい」
「たしか作物以外にも石材と屈強な兵が有名なんだよな。戦場でとんでもねー勝ち方してるヤツがいたら、八割方リオーレ王国出身だって聞いたことあるぜ」
すかさず解説してくれるジュリオ親子。
さすが商人をしているだけあって、そういった情報についてスラスラと出てくる。
「我が国は『剛健・実直・
ハイリーは誇らしげに胸を張り、聖鎧を軋ませた。
「強さこそ美しさ!リオーレ王国には秘伝の格闘技があり、それを教える側である王家が最も強いのです。もちろん、私も例外ではありません!勉強は少々苦手でしたが、格闘技だけはお母様の次に強かったのですから!」
「……だから素手の方が強かったのか」
確かに、ハイリーの脚や腕についた筋肉は普通の女性に比べて逞しく見える。だからといってゴツゴツとした硬い印象は全くなく、柔らかさ、しなやかさと見事に共存していた。
ハイリーの強さの理由が何となく解ってきたところで、やっと話は本題へ戻る。
「お前が強いのはよくわかった。王女様だから作法を理解しているってのもな。だがやはり俺が城まで行く必要性はどこにもないな」
「ダンテ……お前面倒くさいだけだろ」
「それは認める」
素直に首肯するダンテ。
面倒くさい上に、謁見の旅に出れば更に面倒な事になりそうな予感がしているため、頑なに動こうとしない。
しかし、どうしても3人で行きたいらしいハイリーは、真剣な顔をして不動のダンテに立ち向かう。
「でも、やはりダンテさんも行くべきなんです。もしかしたらダンテさんのためになるかもしれませんので」
「どういうことだ?」
「聖剣は前勇者様の魔術でち……体へ『転移』されたのですよね?それならまた別の場所へ『転移』することも可能なのでは?」
今まで考えもしなかった発想に、皆がハッとする。
思わず前のめりになりながら、ダンテは続きを促した。
「……何が言いたい?」
「私は魔術についてあまり詳しくないのですが、城内にある王国図書館には、表には出ないような本がたくさんありました。その中に転移魔術、もしくは聖剣について書かれている本もあるのかもしれません」
「謁見のついでに本を読ませてもらおうってか。なるほどねー」
「ジュリオさんのおっしゃるとおりです。勇者である私からお願いすれば、図書館に入ることは可能でしょう」
蒼い真っ直ぐな双眸が、ダンテに訴えかける。
「聖剣について知れば、聖剣から離れる方法も見つかるかもしれませんよ?」
「いや、でもな……」
「逆になんでそんなに行きたがらないんだよ」
「不安要素が多いし確証もないじゃないか」
ダンテは元々何かに挑んだり、変わることを好まない性格である。
人生のモットーは平穏無事。変化のない穏やかな日々を望んでいる。
そのため、今回のイレギュラーな事態に疲弊したダンテの精神が、彼を非行動的にしているのである。
ウジウジと言い訳を続けるダンテに対し、それまで黙って見守っていたモリスが口を挟んだ。
「ダンテ。お前、自分の発言を覚えていないのか?」
「どれのことよ」
「『聖剣を離せるならなんでもする』」
「あっ」
「お前もジュリオも、もうすぐ大人なんだから、言葉に責任を持たないとな」
「責任って……」
「それに、これは悩みから解放されるチャンスじゃないか。商人である俺からすると、このチャンスは逃しちゃならねぇチャンスだよ」
育ての親は、そう言ってガハハと笑った。
モリスがチャンスと言うときは、だいたい大当たりか大外れかのどちらかだ。
ますます不安が増長したところへ、ハイリーがダメ押しの一撃を加える。
「ふむ。こうなったら王女として命令を……」
「わかった、行く、行けばいいんだろ!」
こうして、不安な3人旅は幕を開けた。
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