これは魔法か、それとも呪いか SideB

春菜と成生智

第一話 その想いは、届かない

 私には、大切な人がいる。私の身体にある無数の怪我を見てはいつも悲しそうにする早苗だ。小学生から中学生になった今でも大切に想っているのに、それでも、私は怪我の理由を彼女に伝えられずにいる。

「早苗、いつも心配してくれてありがとう」

 彼女がその傷に触れながら大丈夫かと口にする度私は精一杯微笑んで、話題を変えつつ彼女から一歩身を引く。最初は理由を尋ねていた彼女も、もう聞いてくることはなくなった。

――この傷は仕方がないの……、私、魔法少女だから

 そのたった一言を伝えられたら、どれほど心が楽になるだろう。でもきっと、今までの関係は崩れてしまう。彼女の心配そうな顔を見る度に胸が痛む。すべてを打ち明けたとき、彼女はどんな反応をするのだろう。考えると怖くなって、魔法なしでは何もできない私はいつも言葉をぐっと押し込むのだった。

 魔法少女への連絡は、決まって望んでいないときにくる。マナーモードの概念がない腕輪型の端末は、連絡が入ると授業中であっても電子音を鳴らす。体調不良以外の理由を考える時間すら惜しまれる緊迫感に、私の心臓が揺らされる。

「先生すみません! ……体調が悪くて」

 もはや定番になったセリフを口にしながら、笑いの中を一人抜け出して、生徒として教室の扉を開ける。開けてすぐ視界の端に捉えた仲間の姿を見て、私の心臓はいつも一段と強く鼓動を打つ。

――行こう。きっと生きて帰ろう

 私たちはいつもそう目配せしながら、魔法少女の矜持を持って、扉を閉める。扉を閉めるときに一瞬見える彼女はいつもどこか不機嫌そうで、嫌われるようなことをしてしまったのではと不安にかられることもしばしばあった。それでも次の日にはいつものように私の身体にある傷をそっと撫でてくれる彼女がいて、私はまた安心して彼女の隣を独占できた。

 いつぞやかに彼女がくれたミサンガのプレゼントを、私は授業中に横目で見た。左腕にあったミサンガの結び目を私は一人そっと解き、通学鞄へと結んだのだった。彼女がこれを私の左腕へと結んだとき、ひどく胸が痛んだのを覚えている。優しい彼女のことだから、きっと私がもう傷付かないようにと願いを込めてくれたんだろう。その優しさを、私は友だちとして受け取ってはいなかったのに。

 「次のニュースです。昨日起きた爆発事故について、いつも私たちの世界を救ってくれている魔法少女たちの活躍により、事故現場で暴れていた怪人を確保しました。現場は……」

 教師に隠れてイヤホンで聴くニュースで、私の傷がどくんと波打つ。

「……良くないよね、こんな気持ち」

 呟きながら、今朝彼女に撫でてもらった傷を一人でそっとなぞる。

――私、早苗に……

 その一言さえ、きっとずっと言えない。

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