【完結】聖剣ですがお前なんかに使われたくありません!

美雨音ハル

プロローグ


 稀代の名匠、グランドストームが光の聖剣(わたし)を打ってから、もう二百年が経つ。

 わたしがこの世界に誕生したばかりの頃、彼はわたしの刃を磨きながら、こんな話をしてくれた。


 ──よく聞きなさい、ティア。お前は決して、一人では生きていけない。お前の命運は、使い手(マスター)に左右されるだろう。


 使い手(マスター)って、誰ですか?


 ──お前とともに、歩む人のことだ。今はまだわからない。それが何人いるのかも、どんな人なのかも、正しくお前を使えるのかも。だが、私はいずれお前の使い手となる人間のために、お前を創った。


 正しく私を使う? 正しいとはなんですか?


 ──正義の心を持って人を助け、誇りを持って光の道を行くためにお前を使う。私の言う「正しさ」とは正義のことだよ。


 正義。でも、私のマスターは、正義を持って私を使う人だと決まったわけではないのですね。


 ──その通りだ、光の聖剣よ。覚えておきなさい。たとえお前の使い手が悪人であっても、お前は使い手に左右され、その力を悪の道に利用されてしまうだろう。剣は、人に使われるモノ。その真理だけは、変わることがない。


 ──だが、お前は選ぶことができる。お前の真価を、お前の真実の姿を発揮させることのできる人物を。お前は使い手を選べるのだ。

 お前は最も強く、最も正義感に溢れ、誇りを持って光の道を行く、わたしの可愛い娘だ。

 人を救う、救世の剣。だからお前の正しいと思った使い手を選びなさい。


 ……わたしは強い。誰にも負けないくらい、強い。この力を持って、グランドストーム様のような人間を助ける。私は、そのために生まれてきた。

 

 私は正義を司る、光の聖剣。

 

 私は、待っている。

 私の真価を発揮できる、本当の使い手(マスター)を。

 

 二百年間、ずっと、ずっと。

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