13sec 24秒の猛攻
「はぁぁああああああ!!!」
メイド服を纏う騎士見習いが目では追いきれないほどの猛烈なスピードで謁見の間を駆け抜ける。
まるで瞬間移動したかのようにしてウガルザードの前に現れた時にはもう、両手で握った剣を高々と掲げウガルザードに振り下ろそうとしていた。
だが、ウガルザードはハニースの高速の動きにもギリギリのところで反応し、左手で煤色の障壁を展開する。
「くっ、小癪な小娘が!」
―――――――1秒
ドクン……、と。謁見の間全体を寒気がするほどのすさまじい気配が満たす。
イットキから漏れだした魔力が波となって謁見の間全体へ拡散しているのだ。
「なっ……、小僧!?」
「よそ見はいけませんよ!!」
ウガルザードがイットキに目を取られた隙をついて、ハニースが足元の床すれすれから障壁をカチあげる。
相手がバランスを崩してのけ反った所に、ハニースが空中で体をコマのように横一回転させて勢いを乗せた水平斬りで追撃するが、ウガルザードが傷ついた右手で張りなおした障壁に阻まれる。
――――――3秒
「まだまだぁぁああ!!」
着地したハニースは障壁などお構いなしに目もくらむような高速の斬撃を幾重にも繰り出す。――袈裟斬り、――左薙ぎ、――左切り上げ、――右薙ぎ、――逆袈裟、――右切り上げ、――唐竹、――逆風(さかかぜ)。
「くっ……、ぬぉっ!」
瞬間に八方向からの斬撃を障壁へ撃ち込まれ、ウガルザードは剣のプレッシャーにじりじりと押し込まれていく。
―――――――4秒
「ここからが本番ですっ!当たれっ!!
斬撃を打ち終わった直後、ハニースは掲げた右手の剣をヒュッと鋭く振り下ろした。
それを合図として白い光が天井にチカと瞬くと、幾筋もの光の流星が天から放たれた無数の矢のようにウガルザードへと襲い掛かる。
「ぅぐううぅぅぅ……っ!」
流星はウガルザードの服を裂き、皮膚を裂き、そして彼の足元に赤い血痕と弾痕のような穴を穿っていく。いつの間にか投げられていたハニースのナイフがウガルザードの真上から光のレーザーを放っているのだ。
「これで最後っ!!王国騎士団流……。」
ハニースは光が降り注いだ時にはもう次の準備に入っていた。右手で握った剣に白い光を纏わせ、腰を落として水平に構えたそれを肩の位置まで弓のように引き絞っている。
「
――――――5秒
肩口から光速で突き出された剣が、腕が、一条の光と化してウガルザードの煤色の障壁に突き刺さった。光の勢いは徐々に勢いを増し、キィィィィィィィイイイイイン!という甲高い音が部屋の空気を切り裂いていく。
「いっけぇええええええ!!」
ダメ押しのハニースの気合で徐々に大きくなっていった光はドッと膨張し太い光の奔流となって、降り注ぐ光に耐えるウガルザードを障壁ごとはじき飛ばした。
――――――7秒
「うぐああああああぁぁっ!!!」
光の爆発でウガルザードは数メートルも吹き飛ばれ、傷だらけの姿で床へと投げ出される。さっきまで彼が立っていた場所は血の赤と焼け焦げた黒の二色の斑模様が残され、4本のナイフが仕留めそこなったことを悔いるかのように乾いた金属音を響かせて落ちる。
「うぅ……、見習いのわたしじゃ……、まだ……、貫け……なかった…かぁ……。」
ドサリ、と。
ここまでチコリスを黒水晶の黒弾から守り抜き、ウガルザードへ怒涛の連撃を叩きこんだ見習い騎士メイドは、誰にも聞こえない小さな悔しさをつぶやいて床へ膝をつく。
――チコリスさまの男の子。あとは――。
「あとは……、僕に任せろ!!!!」
――――――10秒
イットキはハニースが最後の突きを放つ前には走り出し、起き上がろうとするウガルザードの目の前まで迫っていた。
チコリスとみんなを守る。後を任せてくれたハニースの信頼に応える。それだけを願ったイットキの右腕には、自分の赤い魔力と、チコリスから流れ込むピンク色の魔力、その二つが寄り添うようにして螺旋状に渦巻く。
「ウガルザード!!これで終わりだ!!!」
イットキは渾身の力と気持ちを込めて、ウガルザードめがけて赤く輝く拳を振り抜く。
――――――12秒
その時、ボロボロのその男がニヤリと不気味に笑った。
ウガルザードは懐に入れた手から小さな何かを引き抜く。―――札だ。映画館のチケットほどの手のひらサイズの小さな紙きれ、それにミミズが走ったような文字が書かれている。
それが懐から顔を出した途端見覚えのある黒い物体に変わる―――。
ハニースがチコリスを守った姿が頭をよぎり、その直後、イットキは闇の激流に飲み込まれた。
――――――13秒
―――まさかっ!?あの石を拾うそぶりはなかったはずだ!!
とっさに右腕で防御するがハニースのようにうまくいかない、体の中心は守れるが痛んだ体のあちこちに魔弾を受けていく。
―――このままじゃやられるっ!もっとだ、もっともっと強く。こんな闇に負けない……、武器が欲しい!!!
イットキの“願い”に応えるように腕を包む二色の魔力が強く輝きだし、柔らかな魔力の光が硬質な紅蓮の輝きへと変化した。
―――願いは届くんだよ、イットキ。
―――そうだねチコリス。これで終わらせて見せるっ!
――――――18秒
激しい爆発音とともに、イットキを襲う無数の魔弾がはじけ飛ぶ。闇の中から姿を現したその右手には腕の三倍の太さはあろうかという燃え盛るような緋色のガントレットが嵌められている。
「ばっ、馬鹿な!!」
愕然とするウガルザードへ向けてイットキは叫んだ。
「こんどこそ終わりだ!!!ウガルザード!!!!」
――――――19秒
イットキは力強く床を踏み切って高く飛び上がり、イットキとチコリスの想いを詰め込んだガントレットをウガルザードへ振り下ろす。その瞬間、目の前にいままで何度も攻撃を弾いてきた煤色の壁が現れ、またもやイットキのガントレットを阻もうとする。
「うおぉぉぉおおおおおお!!」
――――――20秒
だがもうそれは意味をなさなかった。
ガントレットが触れた瞬間、ガラスをたたき割るように耳障りな音を立てて障壁が砕け散る。
イットキのパンチはほとんど勢いを殺すことなくウガルザードの持つ呪いの黒水晶へと吸い込まれ、ウガルザードもろとも玉座の奥の壁へと吹き飛ばした。
――――――21秒
カシャァンと大きな鈴を打ち鳴らすような音が鳴り、1000人分の魂を閉じ込めた石が砕け散る。ウガルザードのほうはもう完全にノビているのかピクリとも動かない、もしかして殺してしまったのだろうか……?
――――――22秒
イットキの全身をとてつもない疲労感が襲い、思わずしりもちをついた。切れた緊張の糸に合わせて右手のガントレットもほどけるように消えて空に溶けてしまう。
無意識にチコリスを探すと、ハニースを抱きかかえるチコリスと目が合う。
「イットキ……っ!」
「――チコリス……、チコリス……っ!」
互いの名前を大切なもののように呼び合う二人の間に、突然、まばゆいばかりの光の群れが舞い込んだ。
――――――23秒
それは、閉じ込められていたたくさんの魂だ。砕けた黒水晶からあふれんばかりの光があふれ、戦いの終わった謁見の間を魂の輝きたちが幻想的な光景へと変貌させていく。
部屋を満たした魂は徐々に空へと昇り、天井に描かれた大空へと立ち上る。彼らの魂がすべて天に召されていくのだ。
――――――24秒
パタリと糸が切れたように大の字であおむけに倒れたイットキは天井を舞う天使と竜、そしてそこへふわりふわりと昇っていく輝く魂たちを見上げながら満足感と達成感に酔いしれつつゆっくりと目を閉じた。
(続)
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