9sec 覚めぬ夢を求めた者達



「よくも民を巻き込むなどと……、ウガルザード!お前の目的な何なのだ!!?思い出に帰るとはどういうことじゃ!!?」


王様が黒衣の元王宮魔道副官、ウガルザードに吼えるように叫ぶ。


「私の目的……、ですか。――救済――ですよカイロス王。」


「なんじゃと……?」


「救済と言ったのです。この国で苦しむ者たちへの救済、私はそれを成すのです。」




 ウガルザードは大仰に両手を広げ、何かに感じ入るように上を見上げ瞳を細める。だがその状態でもウガルザードには隙が無い。細い目の中からは鋭い眼光が王様を見つめている。



「国の皆を眠らせ意識を奪うことがなんの救済になるというのだ!!」


王様は怒りの混ざった声をウガルザードに浴びせる。




「理解できませんか?私は牢を抜けた後、この国のスラムの中に身を潜めていました。そこに住む者たちは皆が一様に暗い顔をして生活しています。それまで王宮勤めだった当時の私にはなかなか衝撃でしたが、私を助けてくれた彼らに夢を見せてやりたいと思ったのですよ……。賛同してくれた方々も多く、生贄の大半は自主的に集まってくれたのです。スラムの外にも賛同者はいました、彼らの中にも夢を見たいというものは大勢いましてね。だから私はこの国すべてを救済することにしたのですよ、私のように希望を絶たれ永遠に苦しむ国民を救うために。貴方では国民を救えないのですよ、カイロス王。」




ウガルザードの言葉に王様は怒りをあらわにした。


「戯けたことを!!国民は、人は、明日(あす)その先を生きるために今日を生きているのだ!!より良い明日を生きるために、過去を受け入れ毎日を生きているのだ!!!断じて貴様のような妄執者と同じではないぞ!!!」



「呆けているのは貴方の方だ!!救われない者達を救わずして何が王か!!貴方は王の地位に胡坐をかき、部下や国民のことなど見ていないのだ!!貴方を殺してでもこの国は私が救う、私が夢を見せる。そして夢の中にいる我が亡き妻、ブロワーズの元へ帰るのだ!!!」






「―――いい加減にしなさい!!!ウガルザード卿!!!」


謁見の間に響いたチコリスの一喝が攻撃の意思を見せていたウガルザードを止めた。



「ウガルザード卿、あなたもかつては王家に仕えた誇り高き騎士だったはず。その妻であったブロワーズ様が、今のあなたの姿を良しとすると本当に思っているのですか?」



「チコリス姫、私が小突いた少年の介抱はもうよろしいのですか?」



ウガルザードはその言葉とは裏腹にイットキにかけらも興味のなさそうな冷たい声で言い放つ。



「ウガルザード卿、もう一度言います。今のあなたを見て嘆かない騎士の伴侶はいないわ。今からでも遅くはない、投降していただけませんか?」




「愚かな王から生まれた聡明な姫よ、例え妻が望んでいなくとも私には彼女が必要なのです。それに私はこの計画のために殉じてくれた多くの民の思いを背負っている。もはや騎士ではなくとも私は彼らへ立てた誓いに背くつもりはない。呪いをどう解呪したかは知らないが、王を殺し貴方に呪いをかけなおせば計画は完遂する。呪いを重ねてしまえば、次はわずかに目が覚めることもないでしょう。」



ウガルザードはチコリスから目を離してその冷酷に染まった目で王様を見据えた。




――まだだ。ウガルザードの意識は王様とチコリスに向いていて僕には向いてないけどここじゃない、まだ気づかれる。勝負をかけるとしたら次の一瞬……っ。




「この私を易々と討ち取れると思っているのか?老いても私は王。副官程度にやられはしない。」


「強がっても無駄です。王家は治癒や召喚などの特異魔法には通じていても通常戦闘の魔法は得意ではない。素直に諦めれば楽に殺して差し上げます!」


 ウガルザードが言葉に力を込める。言い終わると同時に、下手に構えた右手には黒い光がほとばしる。王も左手の杖に体を預け、ウガルザードへ向けた右手に白い光を宿す。




「くらえ!愚かな王っ…」

「やらせん!ウガルザー…」



――ここだぁあああああああああああああ!!!!



(続く)

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