8sec 与えられた力
チコリスのささやき声が聞こえる。
「イットキ、聞いて。私があの男の注意を引く。だからそのうちにイットキがあいつをやっつけて。」
なんの冗談なのか。たった今、黒衣の男の魔法で吹き飛ばされたばかりなのにそいつをやっつけろだなんていくらチコリスの言うことでも応えられそうにない。
「チコリス。僕にはあの男を止められないよ。だって魔法を使ってきたんだよ?なんの武器もない僕に勝ち目なんてないよ……。」
我ながら情けないと思うが、何気なく放った魔法一回で自分を吹き飛ばすようなやつに勝てるとは到底思えなかった。
「そんなことはないわ、イットキ。今のあなたなら魔法が使える。わたしとその指輪でつながっている限りあなたはわたしの魔力を使えるの。――ごめんね、わたしは戦う魔法は使えないからイットキに魔力をあげることしかできない、それも24秒間だけ。呪いに抵抗する魔力を使うことになるから。お願いイットキ。このままじゃあの男は何をするか分からない、もしかしたらお父様を殺してしまうかもしれない。……そうなる前にイットキに倒してもらうしかないの。」
チコリスは黒衣の男に気づかれないよう小さな声で必死に訴える。
「魔法は……っ、どうすれば使えるの。」
イットキにもう迷いはなかった。魔法が本当に使えるかは分からないけど、チコリスの言うことなら信じられる、そんな確信がある。心と繋がっているという指輪のおかげかもしれない。イットキの心には、ふつふつと暖かい熱量がこみあげてきていた。
「魔法は願いの形。あなたがあの男を倒せるほど強くなりたいと願えば、きっと魔法は応えてくれる。頭で考えるだけではダメ、もっと深く、心の底から願うの。」
イットキからそっとチコリスの手が離れていく。さっきまで残っていた鈍痛は不思議ともう感じなかった。その代わりに熱を、自分だけのものではない強く燃えるような何かが胸の中にある。
「勝負は一瞬よ。お願いね、イットキ。」
チコリスはそう言って立ち上がると、睨み合う二人へと向かっていった。
(続く)
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