4sec メイド?のハニース
気が付くと、向かいで横になるチコリスに手を握られていた。
イットキより少し高い体温が彼女の手を通して伝わってくる。
―――おはよう、イットキ。
「……おはよう、チコリス。」
彼女に手を握られているせいか少しドキドキする。
自分はなんでこんなところで眠っていたんだろうか、イットキは思い出す。
証は手に入れられたのか。指輪はどこへ行ったんだろうか。
彼女に握られた右手を見ると、人差し指にはあの指輪が嵌まっていた。
「あっ、証。これのことだよねっ?」
イットキは自分を見つめる少女に手の指輪を見せる。
「うんっ。イットキ、ありがとうっ。指輪はそのまま外さずにいてね。」
チコリスがゆっくりと立ち上がるので、イットキもつられて素早く立った。
「お城のみんなの様子を見に行かなくっちゃ。ついてきてイットキ!」
チコリスは有無も言わせずイットキの手を引き、部屋に一つだけある木製の扉から外へと飛び出す。
二人は小さな踊り場を抜け、下へ螺旋状に伸びていく石の階段を駆け下りた。
手を引かれながらであったが、女の子の歩幅と速度なのでイットキも危なげなくついていく。
階段の先に見えてきた木の扉を、チコリスはまるで突き破る様な勢いで開く。そうして二人は扉のたくさん並ぶ豪華に飾られた廊下へと飛び出た。
長い廊下には二人のほかに動く人の気配はなく、しんと静まり返っている。
「みんなっ、みんな起きてっ!もう大丈夫だからっ!」
チコリスは廊下を駆けながら細い声を張り上げる。
廊下を走っていると、壁に背中を預けるようにして座り込む小さなメイドを二人は見つけた。
メイドの周囲には、運んでいる途中だったのか銀のトレーとティーセットが散乱している。
すかさずチコリスが駆け寄り、しゃがんで声をかける。
「貴方、大丈…夫…?――って、ハニースっ!?起きてハニース!」
「ン…うにゅ…、んー、……?チコリス…しゃま……。」
ハニースと呼ばれたチビメイドは目を閉じたままうわごとのようにつぶやく。
「ハニース起きて。手伝って欲しいの!起きてってばぁ!もう……、起きなさい!!ハニース・ブレンダ・ストリークス!!」
チコリスが畏まった口調でピシャリと名を呼ぶと、チビメイドが弾かれたような勢いで飛び起きる。
「ふぁい!?王国騎士団所属・騎士見習いのブレンダ・ストリークスでありまぁす!!」
背筋を伸ばし手を胸に当ててそのメイドが素っ頓狂な声で叫んだ。
――騎士?メイドじゃなくて??
「目は覚めた?ハニース。」
「ふぇっ!?えっ、チコリスさまっ?あのっ、えっとっ、今はいつなんでしょうかっ?なんだか夢のような妙な体験を……。」
「質問はあとでね、今は非常時で城のみんなを起こす方が先。きっとみんな貴方みたいになっていると思うから……。皆を起こしてすぐに謁見の間へ集まるように伝えて、お願い。」
まだふらついているハニースの質問を遮り、チコリスは懇願するようにハニースの手を握る。
「はいっ!すぐに皆を謁見の間に集めますぅ!」
チコリスはその返事にうなずくと立ち上がってイットキの手を引く。
「それではわたしたちは謁見の間、お父様のところへ!」
チコリスとイットキは、小さなメイドを廊下に残して先へと駆けて行った。
(続く)
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