【悲報】今日から俺の青春が禁止されました。
とむを
第1話 電気の走る素敵な出会い。
高校二年の8月31日、夏休みも最終日。
俺は川を挟んだ先で、カゲロウに揺らめく男女の学生を横目に、電気屋へ向かうべく自転車を走らせていた。
「アツアツカップルか……。あ~あ、リア充はぜろよ。くだらねぇ」
学生の頃の恋愛など、ただのおままごとに過ぎない。
あからさまにはしないだけで、お互いの性欲をぶつけ合ってるだけだろう。
青春が嫌いだ。
俺は絶対恋愛なんてしてやらない。
当然、和紙のように薄い見栄だ。わかってるさ。
心の奥底では「羨ましい。俺も青春ってものを味わいたい」と思っていながらも、ひねくれた俺の顕在意識は本当の気持ちを圧し殺すんだ。
一向に来る気配のない青い春を、一人で待っている勇気がないだけなのに。
そんな負け犬の遠吠えを頭の中でバウバウ吠えていた時、急に雲行きが怪しくなってきた。
「まずいな、早いところブツを買って、本降りになる前に帰るとしよう」
今日発売の新作ゲーム『モンスター狩人:ワールド』を手に入れるべく、ペダルをより強く踏みしめ、目的地である電気屋へ自転車を飛ばした。
そんな考えとは裏腹に、天は冷酷にもドシャドシャと大粒の雨を地面へと投げつける。
「おいおい、ツイてないな……くそっ」
目的地まで後5分程というところで、空が唸りを上げた。
「カミナリまで鳴り始めやがった……。まぁ、でも雨が降ってるとこには落ちないって聞いたことあるし、大丈夫だろ」
その時だった。
丸太ほどの太さをした紫色の光の筋が、目と鼻のにあるポストに落ちた。
そして束の間、そのポストを経由し、俺の方目掛けて激しい閃光が空間を切り裂かんばかりにぶっ飛んできた。
そのまま走馬灯を見る間も無く、ブラックアウトした。
「
しゃがれた声が頭の中で鳴り響く。
その声で起こされた俺は、採れたてのエビのように上体を跳ね起こし、周りを見渡した。
六帖ほどの部屋の壁には、四方八方にゲームやらアニメやらのポスターが張り巡らされ、床はパソコンの周辺機器や漫画雑誌がそこかしこに散らばっている。
ベッドから起き上がって、二つあるうち、一つの窓を覗くと眩しい光と共に、見慣れた風景が目に映る。
うん、俺の部屋だわ……。
「どうやってここまで来たんだ? 俺は」
軽い頭痛と混乱を抱えながら、テレビの横にあるデジタル時計を確認する。
『9月1日、午前8時20分』
「おいおい、夏休み終わってるじゃん! てかやべぇ、遅刻する!」
昨日の出来事は夢だったのか?
と思いつつ、俺は終わらせていない宿題をカバンに詰め込み、階段を2段飛ばしで駆け下り、テーブルの上に都合よく置いてあった食パンを咥えこんで「あ、それアタシの!」と言う妹に「プリン奢るから!」とだけ捨て台詞を残し、家を後にした。
自転車のギシギシという悲鳴を聞きながら「うおぉ! オラに元気を分けてくれー!」と雄叫びをあげ、まがり角でもスピードを落とさず、アウトコースからインコースめがけて進入した。
角を抜けた先に、一人の少女がいることに気づき、慌ててハンドルを切る。
握力六十キロでブレーキを握り込むも、慣性の法則というのは手強いもので、そうやすやすと止まってくれることなく、ドカンという衝撃音とともに電柱へ激突した。
「あ、イタ〜!」
激しく打った股間の無事を確かめていると、風鈴のように震えた声で少女が話しかけてきた。
「だ、大丈夫ですか~?」
見慣れぬ制服を来た少女が、ふらふら~とこちらへ駆け足気味でやってくる。
潮風が彼女の長い髪をサラリと撫でるようにして、磯臭さと一緒に、女の子のいい匂いを運んできた。
「あー大丈夫、大丈夫。ハハ…‥」
高校生活でろくに女子と会話したこともないので、目をそらし頭をかきながら愛想笑いをこぼした。
「でも、タイヤ曲がってますよ……?」
少女に指摘され、目線を斜め下の方へやると、無残にも捻じ曲げられた愛車のタイヤが目に映る。
「ああーー!! 相棒ーー!」
長年連れ添ったサダハル号に追悼の思いをはせていると、少女が質問してきた。
「その制服……も、もしかして、、あなた、桜ヶ原高校の生徒さんですか?」
「え、そうですけど……」
少女は頭上に七分咲きほどの花を浮かべるように笑顔になった。
「あ~良かったぁ! 私、今日からそこに転校するんです! でも道に迷ってしまって……」
ここらでは見かけない制服だと思ったら転校生だったのか。
てか、転校初日から遅刻とか、こいつなかなかやるな。
「結局遅刻か……。あのクソうるさい
倒れた自転車を起こしながら片手で尻についた砂をはたいてる時、少女は恐る恐るその小さな口を開いた。
「あ、あの……よかったら、案内していただけませんか?」
まぁどうせ行く先は一緒だしいいか。
「別にいいですけど……」
二つ返事で承諾の意を伝えると、艶のある柔らかそうな髪を揺らしながら顔をあげ、頭上の花を満開にした。
「ホントですか! あ~良かった、遅刻でも二人で怒られるなら怖くないですね!」
上機嫌で無邪気な笑顔を向ける少女に少しドキッとした瞬間、電気が走るような衝撃が全身を襲う。
「い、いってぇ~!!」
「どうかしました? あ、もしかして、さっきどこか怪我でもしちゃったんですか?」
少女が俺のそばに駆け寄り、心配そうに上目遣いで俺の目を見つめる。
たまらず目を横にそらした瞬間、再び衝撃が走った。
イタイ、イタイ!
なんなんだこれ?
俺は、漏れ出そうな声を噛み殺して、ふと今朝目覚める前に聞こえた声を思い出した。
どうやら俺は本当に、青春を禁じられたようだーー
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