第四十六話 報告した結果(パラ、ラビエスの冒険記)

   

「私たちは、風の魔王を退治したのだ!」

 私――パラ・ミクソ――の親友であるリッサが、周りに集まった女性冒険者たちに対して、堂々と宣言した時。

 私の視線はラビエスさんの方を向いており、リッサのことは見ていませんでした。風系統の魔法に関して何やらトラブルがあったという話を耳にしたので、ラビエスさんの反応を知りたかったのですが……。

 優先順位が変わりました。慌ててリッサの方を見れば、誇らしげな彼女の隣で、マールさんが「しくじった!」という顔をしています。

 一方、リッサの言葉を聞いた冒険者たちは……。

 全員が言葉を失って、一瞬、辺りが静まり返りました。それから、皆が色々と口にし始めて、騒がしさが戻ってきます。

「いやいや、いくらなんでも、それはダメでしょう」

「あなたたちって、前にも『魔王討伐の旅に出る!』とか言ってたわよねえ」

「問題を解決してくれたことには感謝してるけど、それはそれ、これはこれ。それにかこつけて、魔王を倒したなんて豪語するのは、ちょっとねえ」

 リッサは、すっかり大ホラ吹き扱いです。

 中には、少し好意的な言葉もありますが、

「まあ、まあ。私は信じるわよ、うん。一応ね」

「魔王であれ何であれ、あなたたちが、あの雲を払ってくれたのは確かだからね」

 せいぜい、この程度です。口では『信じる』と言っている人たちも、その顔を見れば、本心ではないのが丸わかりでした。

 こうなるのがわかりきっていたので、私もマールさんも、山で何があったのか聞かれても、魔王に関する話はしないようにしていたのですが……。リッサは、そこまで考えていなかったようです。

 周りの反応は、リッサの期待していたものとは、完全に正反対でした。得意げな表情だった彼女が、だんだん不満顔になってきています。

「まあ、まあまあ……」

「仕方ないのよ、リッサ。魔王が実在するって知らない人も多いんだから。私たちだって、少し前までは、そうだったでしょう?」

 マールさんと二人でリッサを宥めながら、私は「前にも似たようなことあったなあ」と、既視感を覚えてしまいました。

 そんな騒動の中。

「おい、リッサ!」

 ラビエスさんの声です。男性冒険者たちと談笑していた彼にも、リッサの発言は聞こえていたのでしょう。そちらの人々を放り出して、私たちのところにすっ飛んできました。


――――――――――――


「おいおい、ラビエス。まだ話は終わっていないぞ……」

「すまない、続きは後にしてくれ!」

 俺――ラビエス・ラ・ブド――は、センたちをその場に残して、女たちのところへ向かった。

 女性たちの輪の中に割って入るのは恥ずかしいが、今のリッサたちを放ってはおけない。「風の魔王を退治した」という一言で、周囲の人々から、呆れられているからだ。

 ただの大言壮語だと思われているのだろう。いや「村の危機を救った」ことに乗じての『大言壮語』なら、無邪気な放言とは違って、少し悪質だ。

 このままでは他の女性冒険者たちとの関係も、せっかく距離が縮まりそうだったのに悪化するかもしれない。女子寮で暮らすマールたち三人にとっては、色々と面倒なことになりかねないだろう。

「ちょっと通してくれ!」

 女性冒険者たちをかき分けて、ようやく輪の中心に辿り着いた俺は、リッサの腕を掴んだ。

「おい、リッサ!」

「おお、ラビエスもこちらへ来たか。聞いてくれ、私が今……」

 またリッサが魔王云々を言い出しそうなので、俺は慌てて止めた。

「なあ、リッサ。ここで詳しい話をしても、二度手間になると思わないか」

「……二度手間?」

 リッサは眉間に皺を寄せるが、俺の意図を汲み取ったマールが、俺をフォローしてくれた。

「そうよ、リッサ。どうせ窓口で、冒険者組合に、詳しく事情を説明する必要があるのだから……。ここで話をするより、そちらで話すのはどうかしら?」

「ああ、そういう意味か。しかし……」

 リッサは、まだ納得できていない様子だ。自慢話のたぐいならば『二度手間』どころか何度でも語りたい、とでも思っているのかもしれない。

 これ以上反論されても厄介なので、有無を言わさず彼女の腕を引いて、俺は窓口の方へ歩き始めた。

 俺に引きずられる形で、ついてくるリッサ。自発的に、俺に従って歩くマールとパラ。

 途中、こちらを見るセンと目があったので、俺は一応、彼にも告げておく。

「今から窓口に報告に行くから、事情が知りたいならば、その話を近くで聞いておいてくれ」

 俺の言葉を聞いたセンは、表情を明るくして、周囲に大声で宣言した。

「みんな! 詳しい話を聞きたいやつは、ついてこい!」

 センは、大きく手を動かして先導し始めた。その手振りは、まるで「フォロー・ミー!」とでも叫んでいるかのようだ。それも、ネット用語や和製英語の『フォロー』ではなく、本来の英語の方の意味で。

 そんなわけで俺たちは、その場の冒険者たちをゾロゾロと引き連れて、窓口へ行くことになった。ふと俺は、昔の童話で読んだ、笛吹き男とネズミの大群の話を思い出した。


「ああ、みなさん。ようやく来ましたね」

 窓口のお姉さんは頬杖をつきながら、窓口の台に上半身を乗せるような格好で、俺たちを待っていた。

「聞こえましたよ、リッサさんの大声。ようやく、魔王討伐に成功したんですって?」

 彼女は、俺たちの冒険旅行についても知っているので、こんな言い方になるのだろう。もちろん、本心からそれを信じているような口調ではない。他の冒険者たちほど、あからさまに呆れた態度は見せていないが。

「ああ、そうだ。私たちは……」

「リッサ。ここは俺に任せてくれないか? 一応、依頼に対する正式な報告になるわけだから」

 また魔王討伐について語り始めそうなリッサを、俺は強引に止めた。リッサやパラのような途中加入組は、俺をパーティーのリーダーだと認識しているようなので、ここは『依頼に対する正式な報告』というのを口実にさせてもらおう。それならばリーダーが対応するのが当然、という形になるはずだ。

 窓口のお姉さんも、俺の言葉を聞いて頷いている。

「そうですね。こちらとしては、モックさんが向かった山について調べて欲しい、という依頼でしたが……。山の暗雲が消えて村の空気も元に戻ったということは、問題解決と判断してよろしいのでしょうか。これは一時的なものであって、いずれまた暗雲が出現する、なんて話じゃないですよね?」

「大丈夫です。原因を排除したので、再発の危険性はありません」

 俺は『魔王』という言葉を避けながら、問題解決を強調する。

「そうですか。ならば安心ですね……。その言葉を信じて、依頼は達成されたと認めましょう」

 肩の荷が降りたといった感じで、彼女は大きく息を吐いた。

「ただ、一応は詳しい話を聞かせてもらいたいのですが……」

 彼女は、書類に何やら記入しながら、質問してくる。

「暗雲の真下の山頂は、どうなっていました? やはり、その辺りにモックさんがいて、何かをやらかしていたのですか?」

 さあ、ここだ。

 真実を語ることは出来ないが、あまり嘘を言うわけにもいかない。

 慎重に答えようとして、俺が心の中で身構えていると、それを窓口のお姉さんは「返事に困っている」と判断したらしい。

「まさか……。ラビエスさんまで『山頂には魔王がいた』とか『それを退治した』とか言いませんよね? お話としては面白いですが、正式な報告書に記すには……」

 振り向かなくても、背後でリッサが不満な顔をしているのが想像できた。

 窓口のお姉さんにもリッサにも納得してもらえるように、俺は、言葉を選びながら答えた。

「ウイデム山の頂上には、モックではなく、風の魔王を自称するモンスターがいました。それを倒したら、問題は解決しました」

 この言い方ならば嘘ではないから、リッサも受け入れてくれるだろう。

 最初からモックなんて人間は存在しなかったのだから、その意味では「モックはいなかった」と言える。また、あれが風の魔王だったことを俺たちは確信しているが、それを裏付ける証拠はない。あくまでも魔王の『自称』に過ぎないのだ。

「おい、ラビエス……」

 後ろでリッサが何やら言おうとしているが、マールとパラが、上手く止めてくれるだろう。

「なるほど、魔王を自称するモンスターですか……。あんな事態を引き起こしたくらいですから、さぞや強いモンスターだったのでしょうね」

 お姉さんは、俺の言葉を鵜呑みにしてくれた。

 窓口の周りに集まって聞いていた冒険者たちも、この話ならば信じてくれるだろう。

 これで片付いた、と俺が思った瞬間。

「そんなモンスターを倒したのであれば、リッサさんが『魔王を退治した』と言いたくなるのも、わかる気がします」

 窓口のお姉さんが、余計な一言を口にしてしまう。

 これが、リッサを怒らせる引き金となった。

「本当に魔王だったのだ!」

 怒鳴りながら、リッサは窓口に詰め寄る。

 これには、お姉さんも困った顔で、

「でも……。本物の魔王だったという証拠は、ないのでしょう?」

「あるわけなかろう! 私たちが滅ぼしてしまったのだから! 魔王の死骸だって、塵一つ残っていないのだぞ」

「わかりました。リッサさんが、そう言うのでしたら……。一応、教会には申請しておきますね。四大魔王の一匹を討伐した、と」

 そうだ。魔王討伐の依頼主は、教会という大組織だった。

 まあ、教会側でも信じられない話だろうし、どうせ報酬は出ないと思うが……。

「教会への申請書類には、冒険者組合イスト村支部からも、魔王討伐の話に合致する状況証拠という形で記載しておきます。強力なモンスターがいたこと、それが村を困らせたこと、リッサさんたちが倒して事件解決したこと、などを……」

 窓口のお姉さんは、そう言ってくれた。彼女としては、これが最大限の譲歩だったのかもしれない。


 結局、その日の窓口での報告は、それで終わりとなった。

 集まった冒険者たちも「山頂には魔王を自称するほど高レベルなモンスターがいた」という理解で納得したらしい。特に、リッサの魔王討伐宣言に呆れていた女性冒険者たちは「そのモンスターの言葉を、リッサは信じちゃったのね」という、あたたかい目でリッサを見てくれるようになった。

 だが、それで冒険者たちが解散するかと思いきや、そうでもなかった。

「村を救った英雄たちに乾杯!」

 センが音頭をとる形で、そのまま食堂ホールで盛大な飲み会が開かれた。いや、元々センはグラスを手にしていたのだから、俺たちが飲み会に巻き込まれたとか、俺たちをダシにして飲み会の規模が大きくなったとかの表現の方が正しいかもしれない。

 ともかく。

「今日は俺たちのおごりだ!」

「さあ、ジャンジャン飲んでくれ!」

 名前も知らぬ冒険者たちから、そんな言葉と共に酒を勧められるのは、俺としても悪い気はしなかった。勧められるままに、俺は何杯もダークビールを口に運んだ。

「それにしても、魔王を自称するモンスターか……。やっぱり、かなり強かったのかい?」

 センの問いかけに対して、俺は素直に答える。

「おお、強かったぞ。四人の力を合わせて、かろうじて倒せたくらいだ。なあ、リッサ」

 少し離れた席にいたリッサにも、俺は声をかけた。

 窓口でのリッサの不満を解消するためにも、具体的な活躍を語る機会を彼女に与えたのだ。『魔王』ではなく『魔王を自称するモンスター』ということにしておけば、詳細を披露しても問題ない。そう俺は判断したのだった。

「そうだな。決め手となった一つは、私のモコラだ。私が召喚したモコラの活躍は、本当に凄かった」

「……モコラ? 何それ?」

 女冒険者の一人が説明を求めたが、その声を無視してリッサは続ける。

「モコラが吐き出した火炎球により、魔王は大きくダメージを受けて……」

 窓口での一件があったので、もうリッサが『魔王』と口にしても、聞き手は頭の中で『魔王を自称するモンスター』と変換してくれるだろう。

 それよりも。

 暗黒竜モコラを呼び出したことで魔力を使い果たして倒れたリッサは、肝心の暗黒竜の攻撃は見ていないはずなのだが……。まあ、適当に言わせておけばいいか。

「なあ、ラビエス。モコラって何だ?」

 センが、俺に尋ねてきた。リッサは説明しそうにない、と判断したのだろう。

「ああ、モコラっていうのはドラゴンの名前だ。ラゴスバット城での経験やら何やらで、リッサはドラゴン召喚の魔法が使えてなあ」

「ドラゴン召喚?」

「マジかよ!」

「嘘だろ?」

 俺の周りで、冒険者たちが騒ぎ出す。

 グラス片手に、俺はリッサに代わって誇らしげに、彼女の凄さを語ることにした。

「いやいや、嘘じゃないぞ。ほら、前に『西の大森林』を焼き払ったパラの爆炎があっただろう? あれのパワーアップ版をいくつも口から吐き出すドラゴン、と思ってくれ」

「へえ……」

「聞いただけでも、驚愕に値するな」

「やっぱり信じられんが……」

 こうした声は、リッサの耳にも届いたらしい。

「本当だ!」

 こちらに向かって言い放つと、リッサは、自分の胸元に手を突っ込んだ。

 周囲の視線が――特に男たちの視線が――リッサの豊かな胸に集中する中、彼女は『モコラの竜鱗』を取り出し、それを握った手を天井に向けて突き上げた。

「私が、これを握りしめながら、呪文を詠唱すると……」

 リッサが何をしようとしているのか、ようやく俺も理解して、慌てて叫ぶ。

「おい! 誰か、リッサを止めろ!」

 マールとパラが左右から飛びかかって、リッサを押し倒しながら、その口を塞いでくれた。

 ……こんなところで、ドラゴン召喚を実演してみせようだなんて!

 リッサは飲み過ぎて、かなり酔いが回っており、正常な判断が出来なくなっているに違いない。


 それから二日後の朝。

 俺は中央広場で、噴水のへりに腰を下ろして、マールたちが来るのを待っていた。

 いつもの待ち合わせだ。また、イスト村のダンジョンを巡る日々に戻ったのだ。

 もちろん、俺がマールたちとダンジョン探索に出かけるのは一週間のうちの半分であり、残り半分は治療師としてフィロ先生の手伝いだ。そういう日は、マールたちには、女三人だけで出かけてもらっている。

 俺やマールは、こうした日常に満足しているが、リッサは次の冒険旅行に出たがっているようにも見えた。しかし今のところ、他の魔王の居場所に関する情報もないのだから、行くアテがない。

 風の魔王と対峙した時に「どうやら水の魔王も人間の姿で、この大陸をうろうろしているらしい」と悟ったのは俺だけだし、その俺にしたところで、具体的な場所はわかっていなかった。

 風の魔王と水の魔王が、お互いに『人間』として出会った場所は、誇大図書館だったらしいから……。本気で探したいならば、そこから聞き込みを始めるべきだろう。だが俺は、他の三人ほど魔王討伐には乗り気ではないし、第一、風の魔王の討伐について教会に申請した返事もまだ来ていないのだ。

「教会から調査官が来ますので、その調査結果次第でしょう」

 窓口のお姉さんは、俺たちにそう告げたので、これをリッサに対する口実として使わせてもらっている。とりあえず教会からの返答が来るまでイスト村から動けない、という理屈だ。

「マールたち、今日は遅いな」

 そろそろ来るはず、と思いながら、周囲を見渡していると……。

「おや?」

 武闘家のセンが『赤レンガ館』――冒険者組合の建物――から出てくるのが、目に入った。

 まあ、冒険者が冒険者組合に出入りするのは、朝早くとはいえ、おかしな話ではない。俺が不思議に思ったのは、センが連れている三人の中に、明らかに女性と思われる人物が混じっていることだった。

 普通に考えれば、あれはセンのパーティーのはず。しかしセンは、以前に『男だらけのむさ苦しいパーティー』と言っていた。まさか、あの『女性』は、実は男なのだろうか?

 好奇心から、俺は『女性』を、さらに観察することにした。

 フード付きの青いローブを着ており、手には杖を持っている。色は違うが、リッサが使っていた杖と同じタイプのものだ。そういえば、最近リッサは杖を持ち歩かなくなっているようだが。

 この『女性』は、フードを後ろに垂らしているので、はっきりと顔も見える。ショートの黒髪に、細面ほそおもての顔立ち、そして、すっきりとした鼻筋。目尻の切れ上がった瞳は、少しきつい印象を与えるかもしれないが、むしろ俺は美しいと感じた。美人という言葉を使うのは言い過ぎだとしても、魅力的な外見であることは間違いない。

 しかし、何よりも特徴的なのは、その肌の色だった。『小麦色の肌』とか『褐色娘』といった言葉は、こういう人間のための表現ではないだろうか。俺の元の世界で一時期『ガングロ』なるメイク法が流行ったそうだが、それとは明らかに違う、健康的な日焼けの色だった。

 何気なく『日焼けの色』という言葉を使ってしまったが、この世界で、こうした肌の色を見るのは珍しい。いや、珍しいどころか、初めての気がする。もしかしたら、どこか遠くの地方の出身なのだろうか?

 そうやって彼女自身の外見について考えるうちに、突然、俺は気づいた。彼女の『青いローブ』は冒険者用のものではない。教会関係者が着る僧服だ。ということは、彼女は、センのパーティーの一員ではなく……。

 どうやら、俺はジロジロと眺め過ぎたらしい。俺の視線に気づいたセンが、仲間をその場に待たせて、一人、俺の方へ近づいてきた。

「よう、ラビエス! また、あんたのおかげで儲けさせてもらうぜ」

 以前にセンは、俺たちと関わったラゴスバット城の者から依頼されて、その者の警護の仕事をしたことがある。報酬が良かったらしく、その時も『あんたのおかげで儲けさせてもらった』と言っていた。

 だから、おそらく今回も誰かの警護を依頼されたのだろう。それも、しっかりとした身分の依頼主から、俺たち関連の仕事で。

 センのパーティーに混じった青い僧服の彼女を見れば、もう、事情を推測するのは容易だった。

「これから警護の仕事か?」

「そうだ」

「あの、青い僧服の女性の?」

「もちろん。彼女、目立つだろう?」

 センは、ニヤリと笑いながら、俺に顔を近づけた。そんなことをせずとも、この距離ならば向こうの三人には聞こえないはずだが、いかにも内緒話だというのを強調したいのかもしれない。

「ああいうのを、健康的な色気って言うのかねえ。見るからに魅力的な女性だが、ああ見えてヴィーさんは、凄腕の宗教調査官らしいぜ」

 では、青い僧服の褐色娘は『ヴィー』という名前なのか。

「教会から来た、宗教調査官か。それって、つまり……」

「ああ。これから、魔王討伐の証拠を探しに、ちょっくらウイデム山まで出かけてくる」

 そう言い残して、センは、仲間のところへ戻っていく。

 センが合流すると、彼らは、再び歩き出した。

 もしかしたら、センが俺のことを説明したのかもしれない。褐色娘のヴィーが、ちらっと振り返り、こちらを見た。一瞬、目が合っただけだが、彼女の視線の鋭さに、ちょっと気圧けおされる感じがした。

「まあ、頑張ってください」

 聞こえないのはわかっているが、それでも、そんな言葉が俺の口から出る。

 考えてみれば、もう東の山脈にモンスターは出ないはず。警護の仕事も、拍子抜けするほど簡単に違いない。

 それに、どうせ魔王に関連した証拠なんて残っていないだろう……。

 そんなことを考えながら。

 視界から消えてしまうまで、俺は、彼らの後ろ姿を見送っていた。

   

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