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 ソファーの手前には木製のテーブルが置いてあり、二人とは反対側のクッションの上に亜美は一人で座っていた。そこから亜美は両肘をテーブルにつけて、その上に自分の顔を固定して、そこから少し斜め上を見上げるようにして、二人の女の子(柚とさやか)と珍しい全身が灰色の猫を見つめていた。


 亜美はどうやら、予想以上にその灰色の猫のことが気に入ったみたいだった。(まあ、お風呂場で洗ったあとなら、僕もこいつが綺麗な猫だと言うことは認める)


 棗はそんな亜美の横顔を久しぶりにじっと見て、……突然、亜美はとても綺麗だと思った。

(いつの間にか、幼馴染の木下亜美は、昔よりもずっと、棗の知らない間に、すごく綺麗な少女に成長していた)


 亜美は、小さなころからとても綺麗な女の子だった。少なくとも棗は亜美のことを昔からそう思っていたし、亜美の周囲の人の評価とも、それほど違ってはいないはすだった。

 亜美のことを男子の間で噂するとき、たいていの棗のクラスメートは、亜美はちょっと子供っぽいよな、とか、もっと胸が大きければいいよな、とか、冗談ぽい口調で、亜美のことを全然興味がない、という雰囲気で笑っていた。その意見には多少の照れ隠しもあったのだとは思う。だけど棗はそうは思っていなかった。


 亜美は昔からずっと世界で一番可愛いと棗は思っていた。笑っているときの亜美は、本当に世界で一番素敵だと思っていた。


 もちろん、亜美が子供っぽいと言うみんなの意見が間違っているとは思わない。それはそれで本質をついていると思う。亜美は確かにクラスのほかの女の子と比べても子供っぽかったし、ついさっきだって棗はさやかと一緒にいる亜美を見て、(さやかをお姉さん、亜美を妹として)二人は姉妹のようだと思ったばかりだった。だけどそれだけじゃないんだ。美しさにはたくさんの種類があるということを棗は知っていた。

 そして棗は亜美の美しさをほかのクラスメートよりも、ずっとたくさん、知っていた。


 だって僕と亜美は幼馴染だから。

 小さいときから、ずっと、ずっと一緒だったんだから。


 一ノ瀬棗は幼いころからずっと、木下亜美に恋をしていた。それは棗の初恋であり、そして、幼いころからずっと、当の恋をしているお相手である木下亜美にはずっと秘密にしている、……内緒の思いだった。(それは生涯の秘密だ)

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