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 さやかの話してくれる猫の知識はとてもためになった。いつしか棗は夢中になってさやかに猫のことを聞いていた。さやかも悪い気はしないらしく、丁寧に棗の質問に答えてくれた。(動物病院のことや、予防接種。食事、お風呂やトイレ、衛生面のことなどすごくためになった)

 そんなことをしてると、背中をどん、と突然なにかで叩かれた。後ろを振り向くとそこには怒った顔をした亜美がいた。亜美はその手に学校鞄を持っている。どうやら棗の背中を叩いたのは亜美の持っている教科書が満杯に詰まっているその学校鞄だったようだ。

「なんで急に鞄でぶったりしたのさ?」と棗は亜美に文句を言った。すると亜美は「どうしてって、なんでさっきから一ノ瀬くんは、私のことは無視して、さやかとばっかりお話しするの!?」と文句を言い返してきた。

 そんな亜美はわざとらしく頬を膨らませている。そうやって(不満を強調して)自分が怒っていることを、強く棗に伝えたいようだった。(子供っぽい怒りかたが柚に似ていたから、それがすぐに棗にはわかった)

 それから棗は、そういえば昔、子供のころはこんな風に亜美が怒っていることがよくあったな、とそんな懐かしい出来事を思い出した。


「……別にそんなことないよ。ちょっと猫のことを、谷川さんに聞いていただけじゃないか?」と棗は言う。(でも、内心は、確かに少しさやかと二人だけで、猫の話に夢中になりすぎていたと思った)

「そんなことあるよ。……私さっきから全然会話に参加できないままだよ。猫のこと、さやかにだけじゃなくて、私にも質問してよ。じゃないと私、つまんないよ」と亜美は反論する。

 要するに、もっと私のこともかまってよ、と亜美は言っているのだ。

 こうなると亜美は引かない。(普段はおとなしいけど、一度こうなると絶対に自分からは引かない。亜美は昔からそうなのだ)

 だから僕が引くしかないのだけど、なぜか今はいつものようにうまく自分を引っ込めることができなかった。自分でも理由はよくわからなかったのだけど、……もしかしたら今日は僕の隣に、いつもはそこにいないはずの『谷川さやか』がいたからかもしれない。

 亜美にとっても、棗がすぐに謝ってこないことが、すごく意外だったらしく、ちょっとだけ(あ、こいつ、謝るつもりがないな、と気がついて)驚いたあとで、珍しく本気で怒っているようで、なんだかすごく興奮しているようだった。亜美はふーふーと息が荒くなっている。なんとなくそれが怒っているときの猫っぽいな、と棗は思った。

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